後藤英彦のぶっちゃけ放題!
第394回 米国で出回るのは地酒の吟醸酒
2016-09-29
「その日の苦役を終えてビールを飲む時が一番幸せ」と書いてある。
紀元前三千年ごろ完成したたピラミッドの壁に、王の命で工事に駆り出された庶民の記録だ。
人類が酒類を飲み始めたのは紀元前四、五千年前だが、五世紀以前の記録が日本にはない。
万葉の大伴旅人の歌に「君がため醸(か)みし待ち酒安(やす)の野に独りや飲まん友なしにして」というのがある。
待ち人の来ない野原で独り酒を飲む旅人の心境が偲ばれる歌だ。七世紀末ごろ、古代人の飲む酒は処女の噛んだ米を発酵させたものだった。
飛鳥の朝廷雇いの造酒司が鎌倉時代に職場を寺に移し、京では造り酒屋が軒を連ねた。
江戸時代になると酒造りを請け負う専門職の杜氏が登場、彼らを頭に農閑期の農民を雇い酒造りに励んだ。
上質の伏流水や地下水に恵まれた蔵元が、腕のよい杜氏に造らせる酒が各地で評判をとった。
酒の消費は今、日本では下り坂、米国では○一年以降、上り坂だ。
一○年の輸出は百億円を超え一五年は百四十億円、一万八千百八十キロ㍑を記録、一六年には二百億円を突破しそうだ。
「LA地酒会」の百回記念に出たら、東北の地酒をたっぷり飲めた。
杜氏は日本に三十六集団あるが、特に有名なのは南部杜氏。その盛岡に一年住んだせいで東北地酒を特に愛している。
酒には普通酒と特定銘柄酒がある。米国で出回る酒は特定銘柄酒中の値の張る吟醸酒だ。
大雑把に言えばでんぷんの発酵物エタノール(アルコール)を含まないのが吟醸酒、エタノールを含むのが普通酒だ。
普通酒の精米率は七五%前後だが、吟醸酒、特に大吟醸の精米率は大抵三○%で、米を七○%削った酒だ。
日本の高級料亭では吟醸酒を飲めるが、居酒屋、小料理屋で出されるのは通常、普通酒だ。
深酒すると頭痛がする。不純なエタノールのせいじゃないかと個人的には思っている。
古代エジプト人はビール、フランス・スペイン・イタリアの古代人はワイン、日本の古代人は処女の口噛み酒で憂さを晴らしていたようだ。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。