苦楽歳時記
vol 129 とれるかもよ!
2015-01-22
昨年の暮れに、家族でショッピングモールに足を向けた。僕は右半身麻痺の身だから、車椅子の車輪を自分で回せないので、家人と娘が交代で車椅子を押してくれた。
段差につまずくと、周囲の者が二、三人寄ってきて助けてくれる。エレベーターに乗るときも、ドアをおさえてくれる。時には、優しい言葉をかけてくれる人もいる。
広場で一休みして行き交う諸人を眺めていると、意外にも面白い発見があるのだ。家人と娘が買い物に夢中になって、長い間戻ってこない。
そんな折りに、隣に座っていた壮齢の女性が話しかけてきた。僕は自分の病気のあらましと、現在の状況を説明した。ストロークで倒れて以来の言語障害者の語る言葉を、嫌な顔一つ見せずに最後まで静かに聞いてくれた。彼女も過去に乳癌を患った経験を話してくれたのである。
この女性が車椅子を押してくれて、しばらくの間ウィンドウショッピングを楽しんだ後に、意気投合して、フードコートでクッキーと紅茶で息抜きをした。
家人と携帯で連絡を取り合って、この親切な女性と別れを告げた。
この日は、いつになく贅沢をしてしまった。以前からほしかったボウタイを一つ購入して、夕食も約七ヵ月ぶりにレストランで済ませた。
今年は忙しくなりそうな予感がする。本紙編集者のKさんから、詩の添削と対談。作文、エッセイ、絵画の募集。それから、いよいよ絵本の完成を目指すと告げられたからだ。
日本送りの原稿も執筆しなければならないが、悪疾に見舞われて以来、仕事の数も減少したしだいである。
昔取った杵柄で、今年は創作に挑んでみようと思う。『ノーベル賞飴文学賞』ならとれるかもよ!
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。