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コラム

ピアノの道
vol.181 全身全霊の演奏

2026-07-19

小さい時から大きくて健康優良児と思われがちでしたが、実は病弱でした。免許取り立ての母が前夜から地図を予習して私を色々な専門医や大学病院に連れて行ってくれました。原因不明の症状が多く兎に角安静を勧められることが多かったのですが、そんな時「まあ、ピアノを弾くくらいなら良いでしょう」とおっしゃった先生に無性に腹が立ったのを覚えています。

ピアノ演奏は全身全霊の真剣勝負です。かかとを地面にぐっと踏み込んでバランスを取り、丹田に気合を入れて上半身の安定と脱力をし、腕の重みの勢いを計算しながら背筋を意識してペース配分をしながら弾きます。演奏前の補水や食事のタイミング、舞台袖のストレッチ運動や瞑想、演奏中の腹式呼吸や目の動きにも注意しています。全ては最小限の体力で最大限の効果を上げ、ペース配分をして演奏会の最後まで自分の最高の音楽創りをするための努力です。激しい曲を弾くと息が切れます。少ない音一音一音の音色とタイミングに非常な集中力を要する曲は、弾き終わると長旅から帰還したような、夢から覚めたような気持ちがします。

でもありったけの力を込めば良い音がでるか、感情に集中すれば感動を生みだす演奏ができるかというと、力任せや感情任せは独りよがりになるのです。私が長年のピアノ道を通じて思うに、全身全霊というのは頭と心と体を均等に理想に向けてつぎ込んでいる状態です。意識的には目的達成のための最大効果を計算し、肉体的には深い腹式呼吸で可能な限り脱力しつつ必要な筋力を効果的に総動員し、感情的には音楽の伝達と共有に集中できている状態です。練習というのはある意味、技術的・感情的・分析的な側面をそれぞれ分けて解決をした上で、このバランスの交渉をしていく経過です。その経過を経て初めて本番中の全身全霊が可能になるのです。

思うに人生もこの頭と心と体のバランスを取るための道なのではないでしょうか。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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平田真希子 D.M.A. (Doctor of Musical Arts)

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。

詳しくはHPにて:Musicalmakiko.com




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