ピアノの道
vol.176 音楽の解毒作用
2026-05-03
インプットとアウトプットは同時にはできませんが、世界はアウトプットで我々を評価します。SNSでもシリコンバレーでもより多く・早く・目新しいアウトプットが注目と投資の対象となります。この数十年でシリコンバレーに集まった資本金はゴールドラッシュで集まった金塊の総合価値の200倍なんだそうです—インフレを差し引いて計算しても!でも良心や信念や実体験を犠牲にしても評価を求めてしまう強欲は美しくありません。起業・政治・テクノロジー・イノベーション…全てが目まぐるしく加速する中、呼吸も考えも浅くなるのは必然…焦燥感と息苦しさを感じているのは私だけではないはずです。
そんな現代に於いて音楽は解毒効果があります。まず、スピード重視の代価として学習をおざなりにした無根拠な未来形成に対し、聴くという行為は我々を「今」という時間「ここ」という空間に呼び戻してくれます。さらに音楽の共体験で我々は、心拍が拍子に、呼吸がフレーズにシンクする一体感と安心で血圧もストレスホルモンを下降します。そうして音楽に戒められます。周りの苦痛も幸福も自分のものと感じる共感力で生き延びてきた人類は、他人の不幸や不利益を踏み台にして成功しても幸せにはなれない。自己中心的な行為は結局自分の首を絞める、と。
スタンフォードの起業家育成で有名なスティーブ・ブランク教授は「起業は芸術に似ている」と言います。他の人には聴こえない音・分からない感覚を現実化してシェアしたいという欲求に突き動かされ、利益や名声の為ではなく、失敗や貧乏や苦労を重ねても挑戦し続ける―これが本来の起業家精神なのだ、と。そう言われてみると私は確かに突き動かされてこうして文章を書き、スタンフォード大学の国際・異文化教育プログラム(SPICE)の講師として起業家精神を考察するコースを担当しています。そしてピアノ道で私の信念と良心と体感に照らし合わせた真・善・美を毎日追求しています。
この記事は「世界を制覇したいスタンフォード一年生たち(The Stanford Freshmen Who Want to Rule the World)」(The Atlantic, 4/24/2026, Theo Baker)に触発されています。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。








