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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.71 灰色の鳥(6)

2026-05-03

いま自分がしていることは、どこか偽物のような気がする。毎日、世間で求められる役割を演じてるだけで、役割の裏の「本当の自分」を見極めることができない。青い鳥を見つけられない。灰色の鳥しかない。森鴎外の『妄想』の主人公は、そんなモヤモヤとした感覚を人生の最晩年でも抱きますが、それでも死を恐れず、穏やかに最期の時を待ちます。つまり、正解があるはずなのに、それを見つけられずに人生が終わることは悲劇ではない、というロジックが成立しています。どんなロジックでしょうか。

まず、灰色の鳥しかない「こっち」と、青い鳥がいるはずの「あっち」が想定されます。「あっち」は、ライフワーク、最愛のパートナー、生涯の友、夢の実現など、人によって様々でしょう。いずれにしても「こっち」には存在しない。「あっち」が「こっち」につながる可能性が見えない。ここで注意が必要なのは、「あっち」が具体的に何かに分かっていて、それが「こっち」に存在しないというのではない、ということです。ブラッド・ピットと結婚したいけれど、できない。スティーブ・ジョブズを超えるIT革命を起こしたいけれど、才能とビジョンがない。世界一周旅行がしたいけれど、お金がない。それらは実践的な問題で、運や才能や経済力や人間関係や時間をどうにかするしかないし、できない場合は諦めて違うことをするしかありません。そうではなく、ここで問題なのは「あっち」があるのにそれが何なのか分からない。でも、どこかに「あっち」があるという確信を無視することができない、ということ。

要するに、「あっち」と「こっち」の間の断絶だけが存在する、ということです。「こっち」にある具体的な日常は常に変化するし、人によって異なります。家での暮らし、家族、勤務先での日々の仕事、趣味、人間関係の悩み、喜び、等々。「こっち」にあるものは川の流れのように刻一刻と変わり、多種多様で決められたものは存在しない。「あっち」も分からない。あるのはこっち「ではない」という確信だけ。ということは、私たち一人ひとりが深く、なおかつ他者と共通して実感するものは「ではない」という確信ではないでしょうか。(続く)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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