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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.68 灰色の鳥(3)

2026-02-01

プラトンが『パイドン』の中で、「楽しい」「嬉しい」といった感覚の影響から解放されることが哲学の目的、つまりは生きる目的だと主張したのには、以下のようなロジックが存在します。真実とは感覚や知覚を通じて到達できるものではない。例えば私たちは同じ長さの2本のペンを見て「等しさ」を理解する。でも、その2本のペンは本当の意味で等しい長さではない。電子顕微鏡レベルに拡大すれば、ほんのわずかに長さが違っている。それでも私たちは、その等しくない長さのペンから「等しさ」を理解する。なぜか?本当は等しくないものを目にしているのに「等しさ」を理解できたのだから、視覚がペンを捉える以前に私たちは「等しさ」という概念を得ていたということになる。故に、視覚が存在する前に「等しさ」を理解するもの、魂が存在した。知覚が存在する前、つまり生まれる前から存在した魂が、本当は等しくないけれど等しさに似たものを目の当たりにしたとき、忘れていた「等しさ」を思い出すのである。だから「等しさ」の意味を理解した瞬間、私たちは「等しさ」を思い出しているにすぎない。これが有名なプラトンの「想起説」です。想起とは思い出すということです。

「等しさ」だけでなく、例えば「三角形」でも同じことが言えます。プラトンに従えば、私たちは生まれてから一度も本当の意味で「三角形」を見たことがありません。これまで人類の誰一人として本当の意味で「三角形」を見た人はいません。私たちが「見た」と思っているものは「三角形に似た何か」であって「三角形」そのものではないからです。「三角形」とは「3本の直線で囲まれた閉じた図形」と定義でき、おにぎりの形や3本の鉛筆で作った閉じた形、紙の上に定規で描いた三角の図形などは、どれも厳密に言うと「直線」からできていないからです。要するに「三角形」とは概念であり、知覚で捉えるものではなく、理性で「理解」するものなのです。

「感覚や知覚」と「理性」、「経験」と「知識」、「身体で捉えるもの」と「魂で得るもの」は根本的に異なる。前者から後者を解放するのが哲学の目的であり、人生の目的である。これがプラトンの主張です。(続く)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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