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コラム

ピアノの道
vol.166 『自在』の見直し

2025-12-07

「そこまで自由自在に弾けたら気持ちよいでしょうねえ」と時々言われます。実際、自分の思い描く音世界を実現できるのは、時間や肉体や言葉や五感や自我を超越した解放感があります。確かに気持ちよいです。

現アメリカ政権が次々と異例な言動でニュースを賑わす中、アメリカ民主主義を見直す過程で、表現や宗教の自由や自由市場など、『自由』という言葉が良く用いられます。自由とは社会的制約や抑圧から解放され、自分の意志を拠り所にするという意味です。一方『自在』とは、技能や能力を発揮し自分の思うままに物事を操ることだそうです。

政治に於いてもテクノロジーの進展に於いても、我々は『自由』を追求する過程で『自在』を忘れ、重大な間違えを犯してきたのではないでしょうか。人類の文明史は、束縛を最少化する『自由』を追い求めた歴史とも言えます。農業革命・産業革命・IT革命と進む中、食料生産→肉体労働→意思疎通・記録・計算・思考までをもシステム化や機械化することで、生活をどんどん効率化・量産化し、仕事を肉体から頭脳へと移行してきました。今日、先進国に於ける我々大多数は自分の衣食住に関して根本的に無能です。音楽産業でも、実際に体を使って音を奏でる演奏者はヒエラルキーの底辺で、音を出さない教師・指揮者・評論家・興行師などが権力や財力を握っています。

人工知能の出現はその今までの人類の自由追及にどんでん返しの可能性を提示しています。我々は今、重大な自問自答を強いられています。機械化できない人間性とは何なのか。あなたの自在はどこにあるのか。敢えて自分の手でしたい作業、体で成し遂げたいチャレンジとは何なのか。生きる意味とは何なのか。

ChatGPTリリース3周年目を迎えた今週、ピアノを弾きながらそんなことを考えています。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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平田真希子 D.M.A. (Doctor of Musical Arts)

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。

詳しくはHPにて:Musicalmakiko.com




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