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コラム

ピアノの道
vol.165 抑圧の被害

2025-11-16

カバレフスキーという作曲家を知ったのは10歳の時。発表会で妹が弾いたのです。作風に惹かれて妹の楽譜を奪って全曲弾き進みました。特に「手回しオルガンのおじいさんのお話」の物悲しい旋律には胸に迫る寂寥を感じました。香りが呼び起こす記憶の様に、音楽には他の人の気持ちを一瞬自分のものとして感じさせる魔法があります。そういう瞬間でした。

カバレフスキー(1904-1987)はロシア人。ソビエト連邦の検閲を用いた芸術や表現の弾圧の際、体制側についた作曲家でした。労働者や大衆にもわかりやすくロシア人としての誇りや社会主義的思想を広めるための道具としての芸術が「社会主義リアリズム」として奨励され、「芸術のための芸術」は批判対象となったのです。同世代のプロコフィエフやショスタコーヴィチなどが上演や出版の禁止や投獄の脅しなどを受ける中、カバレフスキーは「スターリン賞」「レーニン勲章」などを受賞し、音楽芸術教育の委員長にも就任しています。でもカバレフスキーの旋律に感じた寂寥は、(そういう成功は人を不幸にするのでは)と私に思わせます。「偉大な音楽家を夢見たおじいさんの運命は哀れな手回しオルガンの大道芸人でした。」という冒頭の副題が、67歳のカバレフスキーはこの曲で自分の人生を揶揄っていたのではないかと思わせるのです。

人間は社会的動物です。周りの人の喜怒哀楽を自分のものと感じることで、協力や共同生活ができやすいように生態も脳神経もできています。だから音楽に感動するし、ボランティア活動の健康効果が数値化できます。でも逆に、周りの人間に被害を加えると自分のトラウマになってしまう。権力者が弱い者いじめするのは、自分が負わせている苦痛を感知して怖くなるからではないでしょうか。逆襲を恐れ、今まで犯した罪を認められない勢いで、どんどん罪を重ねてしまうのではないでしょうか。だとしたら、弾圧者への一番人道的な対応は、弾圧を辞めさせることなのではないでしょうか。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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平田真希子 D.M.A. (Doctor of Musical Arts)

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。

詳しくはHPにて:Musicalmakiko.com




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