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コラム

ピアノの道
vol.162 演技のわきまえ

2025-10-05

私は極端な没頭型です。

例えば飛行機で読書に夢中になっていてふと(あれ?何のためにどこに向かっているんだっけ?)と、一瞬混乱したりします。一度物凄く入り込んで練習をしていて、ふと鍵盤から目を上げたら窓の外がパリで、仰天して椅子から転げ落ちそうになりました。夢中は楽しいのですが、責任放棄です。世界中全ての人が没頭型だったら社会はうまく機能しなくなると思います。

没頭型の私の弱点は惰性です。没頭は長続きはしません。没頭が燃え尽きると、次の没頭まで充電が必要になります。でもそれが自覚しにくいのです。まだまだ没頭が続いているつもりで何となく無意味な練習や読書や勉強のかっこうを際限なく続けたりします。

本末転倒にもなりやすいです。練習は演奏のため。演奏は聴衆との音楽シェアリングのため。そこを全く忘れてしまい、例えばパッセージを素早く正確に弾きこなすことに固執してしまい、演奏会の為の体力セーブを忘れて根詰めてしまったりします。

今の私があるのは素晴らしい先生とのご縁に数々恵まれたからですが、特に幼少時から教えてくださった伊藤先生には大切なことを色々教えて頂きました。その一つに「『できるだけ』と『力一杯』は美しくない」というのがあります。「『一番速く』『一番大きく』ではなくいつも少し余裕を持たせなさい」と言われました。若い時には分からなかった伊藤先生の教えが、年齢を重ねてだんだんと分かってきてるのです。感情表現と演技は違う。感情表現なら正直さに徹して、手放しで泣いても、大声で叫んでも良い。でも演技は共感と感動の為—わきまえと思いやりとコントロールと技術が必要なのだ。それを見極める冷静な視点が伊藤先生のおっしゃる「余裕」なのだ。

没頭は子供の特権です。そして私もこの年になってだんだん没頭しつつ自覚を忘れないわきまえの美学が分かってきた気がしています。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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平田真希子 D.M.A. (Doctor of Musical Arts)

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。

詳しくはHPにて:Musicalmakiko.com




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