キム・ホンソンの三味一体
vol.230 それを取り上げてはならない
2025-08-03
イエスは当時のラビ(教師、宗教指導者)の中で珍しくも女性を弟子として受け入れていました。その女性弟子の中にマリアとマルタという姉妹がいました。聖書の中に、イエス一行がこの姉妹の家を訪れた際、マルタがもてなしの準備で忙しく立ち働いている一方で、マリアはイエスの足元に座って話に聞き入っていたというエピソードがあります。マルタは、マリアが手伝わないことに不満を抱き、イエスにその苦情をいうとイエスはこう答えるのです。
「マルタ、マルタ、あなたは多くのことに思い悩み、心を乱している。 42しかし、必要なことはただ一つだけである。マリアは良い方を選んだ。それを取り上げてはならない。」(ルカ10:41)
先日、家族全員で韓国に行ってきました。子供達にとっては生まれて初めての韓国でした。音楽、映画、ドラマ、フードなど、韓国の文化が世界的に大人気になって以来、度々子供達から「ソウルに行ってみたい」というリクエストはありましたが、あまりその気にはなれずにいました。というのは、すでに毎年日本に帰っているし、父親が韓国人だとはいっても韓国語も全然話せないうえにこれからずっとアメリカで生きていく子供達にとって、わざわざ韓国に行く必要はないのでは、と思っていたからです。しかし、とある韓国の教会からの講演の仕事も入り、ソウルの兄たちからのお誘いもあって、この際みんなで行ってみようか、ということになったわけです。正直、期待し過ぎている子供達が失望したらどうしようか、と内心心配していましたが、結果は全く反対でした。兄たち家族の熱烈な歓迎を受けながら、子供達は同じ年頃のいとこ達と心底楽しく遊び、美味しくないものはないのか、と言わんばかりに次から次へと生まれて初めて食べるものに感激し、映画やドラマで見たことのある場所に訪れ、しまいにはアメリカに帰りたくないと駄々をこねるまでになったのです。この旅をきっかけに子供達にとって韓国は日本同様彼らの第二の故郷となりました。
親として子供達のために必要なこととそうではないことを客観的にみて決めてあげることは大事なことだと今でも思うのですが、だからといってそれが必ずしも正しい答えにはならないとこの旅を通して学んだような気がします。子供達は親の考えとは別に自分のルーツに惹かれ、無駄だと思われても自分の好きなことに没頭し情熱を注ぎ、遠回りだといわれても自分の道を歩む、つまり自分の人生を自分で生きて行くのです。そして、誰もそれを取り上げてはならないのです。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

牧師、コラムニスト、元ソーシャルワーカー、日本人の奥さんと3人の子供達に励まされ頑張る父親。韓国ソウル生まれ。中学2年生の時に宣教師であった両親と共に来日。関西学院大学神学部卒業後、兵役のため帰国。その後、ケンタッキー州立大学の大学院に留学し、1999年からロサンゼルスのリトル東京サービスセンターでソーシャルワーカーとして働く。現在、性的マイノリティーをはじめすべての違いを持つ人々のための教会、聖霊の実ルーテル教会 (Torrance) と復活ルーテル教会日本語ミニストリー(OC, Huntington Beach)を兼牧中。








