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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.60 未だ来たらず(3)

2025-05-30

アーサーの悲劇は、現実をリセットして「見たことも聞いたこともないもの」を「未来」と捉える未来観がもたらしたものでした。見たことも聞いたこともないものは、そもそも想像できません。想像できたとしたら、それは無地のスクリーンに投影された自分の欲望を見ているだけなのに、透明なガラスの壁の向こう側に何かが見えると勘違いしているようなものです。

これと対照的な未来観が『パスト ライブス/再会』から読み取れます。ソウルに住む12歳の少女ノラは家族と海外に移住し、お互いに恋心を抱く同級生の少年ヘソンと会えなくなります。12年後に2人はネット上で再会を果たし、連日スカイプでお互いのことを話すようになりますが、作家になるという未来に向かって努力を続けるノラは、ヘソンのことで頭がいっぱいになることを負担に感じ、連絡を取り合うことを終わらせます。さらに12年が経ち、ノラは作家になり、同じく作家でアメリカ人のアーサーと結婚し、ニューヨークで暮らしているところへ、ヘソンが訪ねてきます。妻の心がどう動くのか気が気でないアーサーですが、ノラとヘソンの再会を温かく見守り、3人は食事をして、バーで時間を過ごします。ノラはタクシーに乗るヘソンを見送り、家の前で待つアーサーの腕の中で涙を流し、2人は家に入っていきます。

むしろシンプルなストーリーに思えますが、この映画は登場人物たちが何度も口にする「イニョン(因縁)」がカギになっています。日本語の「縁」に相当するこの言葉は仏教に由来する前世からのつながりを意味し、現世での人間関係は何千もの前世での関係がもたらした結果である、という思想がもとになっています。実際、「袖振り合うも多生の縁」に似た表現も劇中で使われます。物語の軸にもなるこの概念は、もちろんノラとヘソンの関係を示唆していますが、それだけではありません。ノラが初めてこの言葉について話した相手は、後に結婚するアーサーでした。アーサーにイニョンについて語るノラの声が流れる中、画面にはヘソンが後の彼女になる女性と出会う様子が映し出されます。つまり、あらゆる人間関係はイニョンで結ばれていることが表されています。(続く)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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