〇〇良い人悪い人
vol.3 顔良い人悪い人
2025-05-25
資生堂は、ヘアメイクのトレンドを調査/予測する「ビューティートレンド研究」を1987年から40年近く行っている。ファッション・ヘアメイクの流行と同様に「美人の基準」にも流行がある。平安美人、大正美人など「美人の基準」は歴史と共に変遷し続けてきた。社会や経済の推移と日本人の美意識が連動しているからだろう。
ところで、美人の基準には「黄金比」や「Ogeeカーブ」があるが、時代や国を超えて共通なのは「左右対称美」。
「左右対称」で思い描くのは仏像。アーモンドアイ、アルカイックスマイル、面長、正面性と言われるが、やっぱり象徴的なのが「左右対称」。日本最古の仏像「阿弥陀如来」の顔は正に左右対称。近年、カルチャーセンターに増えてきた仏像彫刻教室では、心得として「顔の左右対称」が基本という。「左右対称」で仏像独特の尊厳さが現われるという。
仏像には如来、菩薩、明王などあるが、左右対称の顔を持つ「如来」は悟りを開いた所謂、ゴールした人。「菩薩」はその手前の修行者、つまり「如来見習い」。阿弥陀如来は手の位置は様々でも、真っ直ぐ正面を向いて座す。それに比べ「菩薩」は体を折ったり、首を傾げたり。弥勒菩薩は右手に輪を作り、口に近づけるポージングが魅力のひとつ。首に色々アクセサリーを巻くのは、世俗から未だ脱せない状態を表し、それが菩薩の特徴と聞く。
新生児の顔は左右対称らしいが、生活習慣や人生の苦難で歪んで行くという。これが「表情」という。 高齢になれば、皆が全てを悟り煩悩を断ち切り、より「仏」に近づけると自分が若いときは思っていた。しかし、己も老齢期に入り、己も含め周囲の諸先輩の顔を眺めると『左右対称』とは言い難く、世俗と”お友達の方々”ばかりだ。自然のまま生きていくだけでは、世俗の波間をプカプカ浮かんでいるだけなのだろう。何とか宝珠(なんでも叶う玉)を探して、両手で抱え左右対称の菩薩ポージングがやれたなら、そのうち顔は追いつかずとも、心だけでも左右対称、静穏になるに違いない。
※写真は台湾 道教寺院の「聖杯」。床に投げて裏表で占う。

※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

