キム・ホンソンの三味一体
vol.227 死なずに生きる
2025-05-16
イスカリオテのユダといえば、イエスを裏切った弟子として知られている人物です。聖書によると、彼はイエスを十字架にかけて殺したがっていた宗教指導者達に、銀貨30枚と引き換えにイエスを売り渡したとなっています。しかし、彼の本当の動機やその時の心境などハッキリとしたことは未だ謎のままです。ユダはイエスの弟子団の中で会計係として財布の管理を一任されていたほど弟子達の中でも特に信頼されていました。ユダは政治的にとても急進的な人物で、イエスのリーダシップでユダヤ人達を立ち上がらせ、ローマ政府を武力で打ち負かせてイスラエルの独立を目指していたとする説もあります。もしそうだとすると、彼は自分の民族を救いたいと願う同胞愛に満ちた心の熱い人物だったに違いありません。だからいつかイエスが軍事行動に出るはずだと信じて、献金などのお金の一部をこっそり武器を買い集めることに使っていたとも言われています。しかし、いつまで経っても行動を起こそうとしないイエスに痺れを切らして、先手を打って逆にイエスを敵に差し出すことで他の弟子をはじめ、イスラエルの人々がイエスを守るために立ち上がるだろうと計算していたという風にも言われています。もしそれが本当だとしたら、彼はそのような重大なことを一人で悩み、考え抜いて判断し行動に移したことになります。並大抵の意志の強さと責任感がなければできないことだと思います。結局のところ同胞愛に基づいたユダの思惑は挫折し、イエスは一民族のためだけでなく全人類の救いのために自ら十字架にかかることになります。その後、ユダは自分の行為を激しく悔いて、もらった銀貨30枚を神殿に投げ返して自ら命を絶ってしまいます。赦されないと思ったのです。しかし、他の弟子達だってイエスを裏切った点においては同じでした。イエスの逮捕後、弟子達は一人残らず保身のためイエスを見捨てて逃げました。後に復活したイエスが彼らの隠れ家に訪れ、彼らを赦し愛していることを告げられるまで、自分たちの裏切りは赦されないと思っていたのです。
ユダも自分の罪でさえも赦してくださる神の愛を知っていたならば、死なずに生きることができたと思うのです。自分の許容範囲を、自分の基準を超えたところにある神の愛を知ることで、人は自分自身を傷つけることなく自分を否定しないで生きることができるのではないでしょうか。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

