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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
Vol.55 演じる(4)

2025-01-05

「演じる」とは一般に「見る人に特定の印象を与えるような振る舞いをする」という意味で捉えられ、「偽り」の振る舞いと理解されています。確かに役者が映画や舞台で役を演じる場合には、そのような理解も成り立つかもしれません。でも「演じる」ことは常に「本当」ではない「嘘」の振る舞いなのでしょうか。

そもそも、私たちの振る舞いはそれほどきっちりと「本当」と「嘘」に分けられるでしょうか。親の前で、パートナーの前で、兄弟姉妹の前で、同僚の前で、私たちの身体は自然に異なる動きを見せます。声のトーンから喋り方、言葉遣い、ジェスチャー、相手の言葉の捉え方から感じ方まで、まるでチャンネルを変えるように私たちは振る舞いを切り替えます。そのうちどれか一つを「本当」、残りの全てを「嘘」と決めることは不可能でしょう。

こう言うと、「確かに相手によって多少の違いはあるけれど、少なくとも俳優が舞台で演じる役よりは本当なのではないか」という声が聞こえてきそうです。では逆に、俳優が舞台で演じる役はそれほど「嘘」なのでしょうか。例えば第12代目市川團十郎が『勧進帳』で弁慶を演じる時、源義経に仕えた平安時代の僧兵本人がタイムスリップして舞台上に出現したと思う観客は一人もいません。そこにあるのは弁慶本人ではなく、弁慶として振る舞う團十郎の身体です。それでも、いやだからこそ、観客はその振る舞いに感動します。何故か?私たちが舞台上に見るものが「弁慶本人」ではなく「弁慶として振る舞う團十郎の振る舞い」として「本当」だからではないでしょうか。『カルメン故郷に帰る』でカメラがフィルムに記録したものも、故郷に帰った能天気なストリッパーではなく、故郷に帰った能天気なストリッパーとして振る舞う高峰秀子の身体以外の何ものでもありません。その身体の振る舞いが「本当」のものだった、ということなのです。

ここでいう「本当」とは何か。高峰秀子の言う、真実と嘘がミックスされた「新しい真実」という言葉を思い出しましょう。それはある種の真実であり、だからある種の「正しさ」なのですが、「2+2=?」に対して「4」が正しいというのとは別の種類の正しさなのです。(続く)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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