ピアノの道
vol.133 ギリシャで黙想
2024-07-19
今日の記事はギリシャから。村上春樹が「遠い太鼓」に描いたスペツェス島で開かれた学会で演奏をさせて頂き、その後アテネのピアノ付きAirbnbで少しゆっくりしています。
10代の頃から世界中を演奏旅行してきました。初ギリシャは1997年。その頃は「折角の機会を無駄にしない!」という決意で我武者羅に歩き回りました。でも今回、立ち止まって初めて見える景色、静まって初めて聴こえる音に感じ入っています。Airbnbのベランダで文章を書く手を休めると、立ち並ぶアパートの向こうに海が見えるのに気が付きます。香港を思い出すほど人口過密なアテネは、なぜこんなに静かなのか。鳩の「ホッホーホッホー」という鳴き声が、夏休みに里帰りしたおばあちゃんの庭と同じ。懐かしくなります。昨日訪れたアテネ郊外の湖では一見何もない透き通った水の底に、3分観ていると小指ほどの黒い魚が、5分観ているとメダカの様な透き通った魚の群れが、そして10分観ているとその群れの食べ物をめぐっての競争が見えてきます。
安倍元首相の暗殺から2年。メキシコで選挙候補者が36人も暗殺されたのを始め世界の国々で様々な政治流血が後を絶ちません。先週7月13日のトランプ暗殺未遂で米大統領選もますますヒートアップ。同時に流れてくる報道は国際紛争・環境危機・ジェノサイドと不穏な内容が満載です。運命共同体である我々人類は、何を目指してどこに向かおうとしているのでしょうか?何かをしなければ。声を上げなければ。…焦燥感を感じると、あがいて見せる義務感の様な物すら感じます。しかしもがけばもがくほど状況の判断ができなくなるのも事実。
行動と観察のバランスに役立つのが、黙想であり、音楽であり、そして休息なのでは…そう思うのは、私が休暇中の音楽家だからでしょうか。アテネでバッハを練習し、文章を書きながらできることをやることに誇りと意義を感じたいと願っています。
この記事の英訳はこちらでご覧いただけます。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。








