キム・ホンソンの三味一体
vol.204 社会が君を必要としている
2024-03-15
先日、私の友人の友人で現在サンノゼ州立大学の教授を務める方が開催した講演会にオンラインで参加しました。在日コリアンのアイデンティティと経験と題したこの講演会には、以前話題になったApple TVのドラマ“パチンコ”で主役を務めたお二人が講師として来られましたが、その中でも朴(ぱく)ソヒさんのお話に感動しました。人権運動家であった朴さんのご両親は、朴さんを幼稚園から本名で行かせたそうです。それはアメリカの学校でジョンやトムにまじって太郎という名前を通すこととは根本的に異なることです。朴さんより一回り以上前の時代に韓国名で日本の中学校に通っていたこともあってか、とてもよく共感できました。そのような中、朴さんはご両親にどうして通名ではなく本名でないといけないのか、と問い詰めたことがあったそうです。その時返って来た答えは、「あの学校のクラスが、日本の社会が君を必要としている。あたかもみんなが一つの民族でみんな同じだと思い込んでいる社会に対して、君は朴ソヒという名前で実は日本は色々な違いを持つ人々が共存している社会なのだ、ということを教える必要があるのだ。」だったそうです。おそらく朴さんのご両親は日本で生きていく中、在日コリアンの政治的、歴史的意味、そして自分は一体誰なのかを深く考え、存在意義を問い続けて来られたに違いありません。そして、ついにはその答えを見出し、自分が誰であるかを他者の目を通してではなく、自分自身で定義することができたのではないでしょうか。その答えとは、どうして自分は人と違うのか、から、違いを持つ自分だからこそこの社会に寄与できるものがある、への大転換だったと思います。そして、そのことが人権運動家として社会をより良いところにしたい動機となったのではないでしょうか。
「真理はあなたたちを自由にする」、これは日本の国会図書館の入り口に大きく掲げられている言葉ですが、実は聖書の中に出てくるイエスの言葉です。これは単に知識を得ることで自由になるのだ、という意味ではありません。朴さんのご両親の視点を借りていうならば、真実を知った時、つまり自分が誰であるかを見出した時、差別や偏見、それに起因する困難は依然とそこにあるにも関わらず、内面においてはすでに自由である、という意味です。
そして、この真実はすべての人を分け隔てなく自由にします。この講演会を開いたI教授もその一人だと思います。真実に触れ自分たちという隔てから自由になり、違いを持つ人々の痛みに共感し共に理想的な社会を叫び求める人々へと、イエスはこのように答えます。「はっきり言っておくが、あなたは今日わたしと一緒に楽園にいる」(ルカ23:43)
礼拝:日曜日午前10時(ハンティントンビーチ)、日曜日午後2時(トーランス)
お問い合わせ:khs1126@gmail.com (310) 339-9635
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。