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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.44 壁(4)

2024-02-02

 壁を挟んで微笑み合うオウムの青年信者と地域住民のペアは、もう一つのペア、つまり「本気で日本をポアしたい集団」と「その集団を本気で撲滅したい国家」にそれぞれの「本気」を転移させたからこそ、文字通り壁を超えた交流を実現できたのではないでしょうか。
 
 でも、それは束の間の平和に過ぎませんでした。青年信者は教団による殺人行為が次々に報道されて日本中が「オウムを潰せ」という空気に包まれる中でなお教団に残り、逮捕された教祖の正義を信じていた信者であり、「本気で戦う大文字の他者」でもあったのです。
 
 だからこそ、束の間であっても平和を生み出した心理的構造、強信者の「本気」ですら転移した事実を見逃してはいけません。「教団vs国家」のオフィシャルな対立だけでは問題の解決にならない。お互いの「本気」はイデオロギーとなり、プロパガンダで補強され、「敵と味方」の構図が絶対化され、「壁の向こう側の人たちの言い分にも一理あるのでは」という異論は排除され、憎悪を燃料とした泥沼の戦いが続くだけです。いま世界中で起きている争いを見れば一目瞭然でしょう。
 
 最大のポイントは、自分の「本気」が常に自分のものであるとは限らない、いとも簡単に「どこかにいるはず」の他者に肩代わりされる可能性に開かれている、ということ。この可能性の中に平和の可能性があるとしたらどうでしょう。
 
 言い換えれば、自分の本気は「本音」、大文字の他者の本気は「建前」です。本音と建前の使い分けは多くの場合「偽善」と批判されます。なぜか?建前と本音の乖離を隠しているからです。逆に、その乖離を隠さずに社会全体で認めることができたなら?実際、私たちの日常生活の多くは、言わば「オープンな偽善」のおかげで正常に保たれています。「いつもお世話になっております」と言うとき、心の底からお世話になっていると感謝する人は何人いるでしょうか。
 
 自分の「本音」が実は他者のものかもしれない。他者に本音を肩代わりされることで、自分の中にあるもうひとつの本音、壁の向こう側に共感する本音に気づく。気づいた者どうしが言葉を交わす。壁を挟んで微笑み合う可能性はそこから生まれてくるはずです。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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