ピアノの道
vol.114 ピアニスト放浪記
2023-09-29
本の虫だった私が両親の本棚からも読み漁るようになったのは小学校高学年。中でも「お嬢さん放浪記」の薄い文庫本は何度も読み返しました。犬養道子さんは5.15事件で殺された犬養毅の孫です。戦後、欧米から環境や難民などの問題に取り組んだ放浪記の犬養道子さんは世界中での出会いを慈しみ、冒険に挑み、そしてその全てから貪欲に学んでいました。私はそんな放浪人生に憧れてパリやD.C.などの大都市でも、家畜の頭数が人口より多い広大な田舎でも、目を疑うような豪邸や中世からの歴史あるお城でも、ホームレスシェルターでも、沢山の舞台をこなし、様々な人生や社会を垣間見てきたのだと思っています。物よりも体験を、貯金よりも思い出を、名声よりも友情を大事にしてきた私の音楽人生は主流ではないかもしれません。でもお陰で本当にたくさんの出会いと学びに恵まれてきました。
人は旅人に打ち明け話しをしたくなるものなのでしょうか。18歳の時にボリビアで最初の演奏旅行をしたとき以来、世界中で人々の「王様の耳はロバの耳」的告白をたくさん聞いてきた気がします。特に若い時は固唾をのんで聞き入りました。そして私自身もいろいろな打ち明け話しを世界中でしてきたのだと思います。もう20年以上も前に私の演奏を聴いてくださったお客様から「主人の遺品を整理していたらあなたの演奏会の時に一緒に撮った写真が出てきて…」とメールを頂いたこともあります。25年前旅行中にたまたま相席でご飯をした方から急にFacebookでお友達リクエストが舞い込んで来たり、私の公開レッスンを受講して下さったピアノ愛好家の方が急に私のブログに熱いコメントをなげかけてくれたりもします。それを思うと私は音楽の輪を世界に紡ぐお仕事をしているのだなあ、と感じます。
最近また旅行が増えてきました。前回のエントリーはシアトルから、今回のエントリーはヒューストンから送っています。私の音楽活動は演奏だけではないのだなあ、としみじみカタカタタイプしています。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。