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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.39 見極め (7)

2023-09-03

 さて、そろそろ「見極め」と銘打って綴ってきた私のことばをまとめてみましょう。なぜ学校で勉強をする必要があるのか?生きることの価値を見極め、生きることの意味を知るのに役立つ「世界観」を得るため、と言いました。でも、因数分解や大化の改新やカ行変格活用など、学ぶ事柄によって全く異なる「世界観」が立ち上がってしまう。さらには、「世界観」の「世界」は「全てを含むもの」という曖昧な意味を持つものであり、「これ」と指し示すことすらできないことがわかる、とも言いました。

 おそらく、私は矛盾していると指摘する人も多いでしょう。そもそも何かを「見極める」には、見極める対象がひとつに定まっている必要がある。そしてその対象と、その対象を見極める者とが明確に区別されなければならない。例えば目の前にリンゴのように丸くて赤い物体があるとします。それが次の瞬間に三角になったり、煙になって消えたりしたら「見極める」ことは不可能です。また、気づいたら見極める者が実はその物体の中にいた、なんておかしな事態が起きていても、見極めることは当然不可能となります。つまり、(1)生きることの価値を「見極める」ための「世界観」を得る、と言いながらも(2)実際の「世界」は「見極める」行為をそもそも不可能にする、と言っている。これは矛盾じゃないか、と反論したくなるかもしれません。

 でも、ここにこそ勉強の意味があります。勉強の目的とは(1)から(2)に移行することです。(1)が示す「見極める」態度とは、要するに生きることに対して「お客さん」であること。「どれどれ、この私が人生とやらの価値を吟味してやろうじゃないか。さあ世界よ、私に見せてごらん」という態度で、テレビに映る映像を眺めるように「生きる価値」に向き合う人がいたらどうでしょう。何か非常に未熟なものを感じはしないでしょうか。その態度を捨てて(2)に至る。いつまでも世界のお客さんでいることをやめる。世界と自分を絶対的に分ける境界線は存在しない、自分は既に世界の一部であり、自分の行動が世界に具体的な変化を起こす、起こし得る、と理解する。覚悟する。これを成熟といいます。(続く)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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