ピアノの道
vol.111 マウイの火事と一期一会
2023-08-18
「また来るね。」そう言ってマウイを飛び立ったのが去年の5月。それなのに去年一週間お世話になったラハイナ浄土院は、今月8月8日に始まったマウイ島の大火災で全焼。住職を務めていらした私の友人のお父さまやお母さまは無事に避難されたものの、1912年に創立されたお寺とそこに収められた数々の工芸品、そして日系アメリカ人コミュニティーの歴史の産物は、煙と灰に姿を変え、二度と戻れない場所となってしまいました。
一緒に叩いた木魚。声を合わせて唱えたお経。お香の匂い。あの時の一体感が今私の心をラハイナに飛ばし、マウイで被災された方々のために何かをしたい、という意欲を掻き立てます。
LAでの演奏会の翌日にマウイ空港に飛んだ強行軍の小旅行だったけれど、行っておいて本当に良かった。あのお寺や境内、そしてラハイナやマウイ島の美しさや優しさは、私の思い出の中に生き続ける。これからの私の言動や存在の一部であり続ける。
気候変動の影響でこれから頻度を増すであろう自然災害をマウイの惨事に重ね、身を引き締めるような思いがします。我々はどうやって保身よりも思いやりを、不安感よりも自尊心を、そして利己主義よりも達観を選択して、お互いを支え合い、人間性を持続していけるのか。音楽家として私は何をするべきなのか。
この記事の英訳はこちらでお読み頂けます。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。








