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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.36 見極め (4)

2023-06-02

 私たちが日々繰り広げる行動の「意味」を知る、つまり「この行動には一体どんな意味があるのか?」に答えるには、その行動の当事者の視点とは別の次元からの考察が必要です。それを可能にするのが「世界観」、つまり「世界とはこうなっている」という理解であり、それを提供してくれるのが学校での勉強です。

 「そんなバカな。因数分解の勉強がどんな世界観を提供してくれるの?大化の改新が645年だと知って、それがどんな世界観につながるの?カ行変格活用は?分詞構文は?」という声が聞こえてきそうです。でもこれは的外れな指摘。例えば、サッカー部の1年生が練習で走り込みをして「先輩、いま僕は右足を前に出しましたけど、この1歩が今度の試合のどの瞬間に役立つのですか?」と聞くようなものです。様々な勉強内容の1部分だけを取り出してそれが具体的に役立つ場面を問うてもあまり意味がありません。逆に、現実にそのまま役立つ知識だけを学ぶべきだとしたら、そもそも学校で学ぶことのほとんどが必要なくなるでしょう。

 因数分解も「世界観」を形成するための重要な知識です。「x2+5x+6=(x+2)(x+3)」が成り立つことを理解するのは、「=」の意味を理解することにつながります。すなわち「同一性(アイデンティティ)」の概念を理解すること。数字という抽象概念に適用される「=」を、私たちは「私は私である」という時にも用います。でも「私」を形成する肉体は分子レベルで見れば常に変化を続けています。本当の意味で「1秒前の私=現在の私」とは言えない。でも、「私は私である」は数式のように純粋に、明確に確信できる。どういうことか。私たち人間には、常に変化する物質的な部分と、抽象概念のように変化しない部分があるのではないか。これが「世界観」です。

 大化の改新は645年に始まった国政改革であると同時に、日本史という「物語」を形成する要素です。人間とは歴史的存在であり、歴史という「物語」がないと生きていけません。なぜなら「今ここにいる私」は過去から現在まで連なる一連の出来事の集大成だから。「今ここにいる大谷翔平選手」を理解しようとするとき、今年3月のWBCでの出来事を無視できるでしょうか?(続く)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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