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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.29 セオリー

2022-11-04

 ニューヨークの大学院時代、同じ学校の政治学科で学ぶ日本人の女性と知り合いになりました。日本の某有名大学出身で成績も優秀な人でしたが、学校のラウンジで会話したときの違和感を今でも覚えています。彼女は自分の研究分野と「あるべき社会の姿」、そしてそれを実現させるための理論を披露してくれました。なるほど確かに理にかなっているし、そんな社会が実現したら素晴らしいと思える内容。でも、その「あるべき社会」を望まない人たち、その実現を妨害しようとする人たちがいたらどうするのか。実際にはそのような人たちだらけなのが現実だと思っていた私は、率直に聞いてみました。

 「でも、そういう社会の実現を阻もうとする人たちは大勢いると思うんですけど、それはどうしたらいいですかね?」彼女は目を丸くして言いました。「へ?そんなのセオリー通りじゃないじゃないですか!?」私は彼女の驚きに愕然とし、言葉に詰まってしまいました。

 セオリー(理論)に携わる人たちが陥りやすい罠として、セオリーの明快さに囚われるがあまり、セオリー自体に含まれる「セオリーを無効にする力」を見落とすことがあります。あらゆるセオリーは「AはBである」という形式をとります。「三角形の内角の和は180度である」「すべての人は人権を尊重されるべき存在である」「この世で一番美味しい朝食は焼き魚である」どんな内容であっても、セオリーであるためには「どういう場合にそれが正しくて、どういう場合に間違っているか」を明確にする必要があります。「ハムエッグが一番だと思う人が大勢いますよ」と反論しても「いや、そうであっても焼き魚が一番です」というなら、それはセオリーではなく「個人の感想」です。セオリーが反証され無効になる可能性。カール・ポパーはこの反証可能性を科学の基本条件としました。

 セオリーは「セオリー通りじゃないことがありえる」ことを前提として成立します。理性的に考えて「これが正しい」と思う。でも、こういう場合には正しくないと認めなければならない。その上で、自分の考える「正しい」を他者の持つまな板に載せる。「セオリー通り」とはその態度のことではないでしょうか。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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