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コラム

受喜与幸 ~受ける喜び、与える幸せ~
vol.50 小さなことの積み重ねが実を結んだ瞬間2

2022-10-07

 前回の続きです。鎌形赤血球症の治療において、遺伝子治療という根本的な治療は難しくても、遺伝子が引き起こす問題、過剰な酸化という問題は緩和できる対症療法への気づきについてお話ししました。

 酸化はもともと医学的には比較的簡単に治せる現象でした。細胞の中にはNADというすばらしい抗酸化分子、すなわち赤血球の酸化抑制作用に大きなはたらきをもつ物質があらかじめ備わってもいます。

 また、生命がみずから生きようとする自然の治癒力によって、病気の赤血球細胞は自力で懸命にNADを製造しようともしていることも実験を通じてわかりました。となれば、私たちにできるのは、その自然の抗酸化力の手助けをして、その能力を活性化してやることにほかなりません。

 それで、NADの原料であるグルタミンを病気の細胞に与えてみたのです。すると理論どおり、NADの数値が急激に向上しました。それは化学の方程式に即した現象で、その意味では驚くべきことではなかったのかもしれません。

 しかし、顕微鏡の中でくり広げられている光景は目をみはるものでした。与えたグルタミンを、病気の細胞がまるで砂地が水を吸い込むようにものすごい勢いで吸収していくのです。

 その様子は、傷ついた細胞にとって、待ち望んでいた助けがやっと現れた、そのような印象を与えるものでした。彼らは私たちが外から供給するグルタミンを、与えられるそばからどんどん吸い込んでいき、それだけでなく、それを次々にNADに変えていったのです。

 細胞の中でNADの数量に変化が起こる……。この現象は実は、これだけで強力な論文が書けるくらいの新しい化学的発見なのですが、さらに驚いたのは、NADの増加にしたがって、鎌形に変形していた赤血球の数が減り、正常な丸い赤血球の数が増えていったことです。それにつれて、患者さんの症状もいちじるしい改善を見せていきました。

 最初の治験には、四人の患者さんが協力してくれていました。全員がそれまで痛み止めの薬を大量に服用し、月に一回か二回は必ず入院を必要としていたのに、治験中には、まったく入院の必要がないほどに症状が改善し、痛み止めの服用量も激減して、見違えるように元気になってしまったのです。

 研究する医師にとっては画期的な発見が、病気に苦しむ患者さんにとっては福音が、それぞれもたらされた瞬間であったといえるかもしれません。

 鎌形赤血球症という難病の治療に光が差し込んだ瞬間に、当事者として立ち会えたことは、私個人にとってもきわめて幸せな、喜びに満ちた出来事でした。一九九〇年代のなかばのことです。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新原豊

新原 豊(にいはら・ゆたか)
1959年東京生まれ。ロマリンダ大学宗教学部卒、同大医学大学院卒。1989年よりUCLAハーバー総合病院にて血液内科と腫瘍内科に所属。ハーバード大学で公衆衛生学修士課程を修了。2005年よりUCLA医学部教授に就任。Emmaus Life Sciences, Inc. 会長兼CEO、EJホールディングス㈱ 取締役会長。Emmaus Life Sciences, Inc. の株式シンボルは、”EMMA” です。




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