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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.26 パラレル

2022-08-05

 私がボストンの大学院に留学するために渡米したのは1998年の夏、28歳の時でした。その年、本当の意味で異文化を体験することになります。
 
 ボストン中心街のショッピングモールにあるフードコートに行くと日本食のファストフードスタンドがあり、そこでChicken Teriyakiという料理を見つけました。細かく刻んで鉄板で焼いた鶏肉に甘辛いソースをからめてタイ米の上にのせたもの。美味しい料理でしたが、それよりも印象に残ったのは僅かでありながらも決して無視はできない日本の照り焼きチキンとの違いです。鶏肉、甘辛ソース、白米を使っていても「Chicken Teriyaki」と「照り焼きチキン」は全く別の料理。でも、ハンバーガーと日の丸弁当ほどの違いはない。同じようでいて、どこか違う。パラレルワールドに入り込んだような体験。
 
 その後、大学院で西洋思想を徹底的に学んでいきましたが、そこで理解したのは「西洋と日本の思想は確かに大きく異なるが、一方が他方を『思想ですらない』と否定できるほどは異ならない」ということです。確かに違いはある。でも、両者がこの世界にパラレルに存在することは十分に理解できる。28歳まで「異」なる思想だったものと、自分の世界観との間には、実はChicken Teriyakiと照り焼きチキンほどの差しか無かったという事実。知識ではなく、甘辛チキンの味を通じた体感として今でも私の中に残っています。
 
 社会が分断を極めたいま問うべきなのは、「どう分断を超えるか」よりも「どう分断を『パラレルな感覚』に変換するか」でしょう。でも、いまパラレルに捉えるべきなのは「西洋と日本」「アメリカと中国」「西側諸国とロシア」などではなく、「チキン照り焼きとTeriyaki Chicken」です。つまり「現実とフードコート」をパラレルに捉えるということ。思想・宗教・政治的立場の違いによる抜き差しならない緊張関係が支配する現実世界と、イタリアンから中華、日本食、ロシア料理、ウクライナ料理まで、あらゆる料理を仲良く並べて「多様性」を実現するフードコート。この二つをパラレルに捉えることで、敵と味方に分断した現実でもなく、フードコートが暗示するお花畑のような多様性でもない、両極の中間を模索することができるに違いありません。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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