受喜与幸 ~受ける喜び、与える幸せ~
vol.32 「得るよりも与えやすい」生命の仕組み1
2022-06-03
全身に酸素を運ぶという、生命にとって不可欠な役割をしているヘモグロビンですが、その分子を拡大してみると、細長い糸をやわらかく丸めたような一定の形状をしています。そして、その遺伝子の一部に異常が起きると、ヘモグロビンのタンパク質同士がどんどんくっつきあってしまいます。
すると、元は液体状であったヘモグロビンが固まって、べとべとしたゲル状になってしまう。このことが赤血球の自在なやわらかさを失わせてしまう原因となるのです。
昔からの日本の遊び道具にお手玉がありますが、球状の袋の中に、たいていはあずき豆を入れたものです。このあずきが一粒ごとばらばらに独立していれば、お手玉を平たくしたり、へこませたり、形を変えることが可能です。
でも、中のあずきが互いにくっつきあってしまったらどうなるでしょう。お手玉は硬いボールのように固まって変形能力を失ってしまいます。
それと同じことが赤血球に起こるのが鎌形赤血球です。あずきがヘモグロビンで、お手玉の布が赤血球の膜です。
ただ正確にいえば、ヘモグロビンに異常が発生しても、すぐに赤血球が硬くなって血管が詰まってしまうようなことにはなりません。少し硬くなった程度なら、赤血球は酸素を供給しながら、何とか毛細血管の中を通過し、もっと太い静脈まで達します。
通過後は静脈に入り、静脈から肺へ戻って、そこでふたたび酸素をもらいます。酸素をもらうと赤血球の柔軟性はかなり回復します。そして再度、動脈から毛細血管へ続く酸素配給の旅へ出るのです。
しかし、この旅を何度かくり返すうちに、赤血球の劣化はしだいに激しくなっていきます。柔軟性は衰え、形状も文字どおり鎌の、するどい刃のような形に変わってしまうのです。
だいたい二、三回リサイクルされるうちに、その変形がひどくなって、毛細血管に入れなくなり〝異物〟として体外へ排除されるか、たまたま入れたとしても、出られなくなって、血管を詰まらせる原因をつくってしまいます。
そう考えると、正常な赤血球の変形能力に富んだ、やわらかくてしなやかな性質は、人間の健康と生命の維持にとって非常にありがたい、不可欠な条件であることがよくおわかりいただけると思います。
次回へ続く。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

