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vol.30 鎌形赤血球症の壮絶な痛みはなぜ起こるか1
2022-05-19
鎌形赤血球症という病名は、多くの日本人にとってなじみの少ないものだと思います。それは血液中の赤血球に「奇形」が生じ、赤血球本来のはたらきに支障が出ることから引き起こされる病気をいいます。
赤血球はご存じのように全身に酸素を運ぶ役割を担っています。赤血球の主要な成分は、ヘモグロビンと呼ばれるタンパク質で、このヘモグロビンが肺から得た酸素を体のすみずみまで送り届けるはたらきをしているのです。
ですから、赤血球は、いわばヘモグロビンを包む袋であり、ヘモグロビンによる酸素運搬を専門に行う血液細胞と考えてもらえばいいでしょう。
鎌形赤血球症は、このヘモグロビンの遺伝子に突然変異による異常が起きて、赤血球の形が三日月みたいに変形してしまう病気です。赤血球は通常、中央部がへこんだ円盤みたいな形をしています。おでんのガンモドキやハンバーグに似た形状です。
ところが遺伝子異常が起きると、その形状が三日月形の、文字どおりするどい鎌の刃のように変わってしまい、赤血球が本来もっている柔軟性が失われてしまうのです。
では、なぜ赤血球の変形がこのように恐ろしい病気を招いてしまうのか。そのメカニズムをもう少し詳しく見てみたいと思います。
専門的な言葉も登場して、ちょっとむずかしい感じがするかもしれませんが、その仕組みを知ることで、私たちはさらに生命の不思議さや精妙さに触れることができるはずです。
赤血球は全身の毛細血管へ酸素を運び込むはたらきをするといいましたが、そのメカニズムはざっと次のようなものです。
赤血球のほとんどは、鉄を含む〝赤いタンパク質〟であるヘモグロビンで構成されていて、赤血球はこのヘモグロビンに酸素を取り込む仕組みになっています。
ご存じのように、鉄は酸化しやすい(錆びやすい)性質をもつ成分ですから、このヘモグロビンの鉄分に、呼吸によって得られた酸素がくっつき、それを赤血球が体のすみずみまで運搬するわけです。
つまり、ヘモグロビンと結びついた酸素は、赤血球という乗り物に乗って動脈を通り、さらに細動脈から体中の毛細血管へと運ばれ、全身の細胞へ、くまなく供給されるという仕組みになっているのです。
毛細血管は、全身に網の目みたいに張りめぐらされていて、全部つなげると地球の二周以上にも及ぶ、ものすごい長さをもっています。そこへもれなく酸素を運ぶのですから、赤血球の必要量というのも膨大で、成人の細胞数約六〇兆個のうち、三分の一にあたる二〇兆個は赤血球細胞で占められています。
また、赤血球にはもうひとつの見逃せない、不思議な特徴があります。非常にやわらかくて、形を柔軟に変えられる変形能力にすぐれている点です。この能力のおかげで、赤血球は微細な毛細血管の中へもなんなく入り込んでいけるのです。
次回へ続く。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

