NIKKAN SAN 2021-01-05

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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.22 分断

2022-04-01

 皆さんは「しみじみ」を英語で何というかご存知でしょうか?調べてみるとkeenlyと訳されることが多いようです。例えば「私は彼女がいかに必要かしみじみと感じた」は「I keenly felt how much I needed her」。でもkeenlyは「鋭く」「痛烈に」という意味もあり、この英文は「〜必要としていたか痛感した」という意味にもなります。そうなると「しみじみ」のもつ独特のニュアンスは失われてしまう。deeplyやfullyと置き換えることもできますが、やはり「しみじみ」そのものを表現するのは無理でしょう。

 「しみじみ」は「染み染み」「沁み沁み」という漢字からも分かるように、感情や理解が深く伝わることを液体がものに染み込む様子に例えています。つまりあの「じわっ」とくる身体感覚を伴った言葉であるということ。身体感覚こそ説明が極めて難しいもののひとつです。自分が食べた絶品料理の味を言葉で完璧に再現できるでしょうか。だから身体感覚こそ誤解や無理解を生む大きな原因になり得ます。

 私たちは生きている限り、身体感覚を完全に超越することはできません。つまり私たちはある程度まで言葉による意思疎通はできても、究極には越えられない境界線に分断されて生きる存在だということ。外国語を学ぶ大きな意味のひとつがこの「分断の運命」を受け入れることではないでしょうか。「しみじみ」はどこまでいっても「しみじみ」でしかなく、keenlyと一致することはない。

 では、どうするか。どうせ越えられないんだから越える努力をするだけ時間の無駄だ、とするか。越えられないからこそ表現を工夫し、「水が染み込む感覚」と説明し、なんとか理解を深めようとするか。つまり分断自体を受け入れ、お互いを単なる「分かり合えない奴」にしない努力をするか。君が言うそれは、ひょっとして僕たちのこれに似ているかな。ここは違うけど。なるほど、じゃあそれは私たちのこれに近いかもね。ここは違うけど。そうして「ここは同じだけどここは違う」という視点が生まれ、双方がそれを共有し、そこに新たなコミュニティが形成されるのでは。分断の運命がDNAに刻み込まれた私たちに必要なのは、「時間の無駄だ」とする人たちとのあいだに新たな分断を生むことかもしれません。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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