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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
Vol.13 Escapism

2021-07-02

少し前に雑誌GQのネット版で「”Just One More Thing”: How Columbo Became an Unlikely Quarantine Hit(”もうひとつだけ”:いかにして『刑事コロンボ』は予想外の隔離期ヒット作となったか)」という記事を読みました。

 『刑事コロンボ』は言わずと知れたアメリカで大ヒットした刑事ドラマです。この記事の作者はコロナ禍で家に引きこもるあいだ、ディープな内容で「ハマる」ドラマよりも、『コロンボ』のように金持ちの犯罪をヨレヨレの風貌の中年刑事が暴いていくお決まりパターンの「ソフト」な作品の方が楽しめた、と言っています。その裏には昨年から勢いを増しているBLM運動や警察への抗議活動などからくる警察への不信感と、他の刑事ドラマが描く「正義の警察」像への懐疑が含まれています。いわば「正義の警察」というファンタジーを楽しむ現実逃避(escapism)である、と。

 興味深いのは、現実への幻滅からファンタジーへ逃避したものの、ハードなドラマに没頭するのではなく、「ハマる」ことなく「見る」だけでいいソフトな作品に着地したところ。ハリウッド映画のスターやクリエイターたちの参入、またNetflixをはじめとした動画配信サービスの盛況で黄金期を迎えているテレビドラマ産業ですが、確かにどの作品も独自の世界観と魅力的なキャラクター、スリリングな物語展開と美しい映像で私たちをぐいぐいと作品世界に引き込み、「ハマる」ものばかりです。

 過酷な現実から目をそらし、肩の力を抜いてファンタジーに戯れるのが現実逃避だったはずなのに、逃避した先にあるのはサスペンスに満ちた100を優に超えるエピソードに熱情をもって没頭するよう駆り立てられる世界だとしたら。逃避することに疲れ、今度は逃避から逃避したくなるかもしれません。コロンボにたどり着いたのも、ハードな現実とハードな逃避のシーソーゲームから逃避したいという欲求の表れなのでしょう。

 ただ、第三の道としてソフトな逃避をしたところで理不尽がまかり通る現実から目を逸らしているだけ。一時のガス抜きが済んだら同じ現実が待っています。現実を受け入れるのではなく、ハードな逃避でもソフトな逃避でもない、第四の道を見出すことで初めて私たちは現実を変える視点を手に入れるのかもしれません。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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