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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
Vol.12 CynicismとIrony

2021-06-04

 現代はCynicism(冷笑主義)の時代と言われます。政治的な信条を述べたり社会正義を訴えても言葉通りに受け止められず、「どうせ裏で何か企んでいるのだろう」と冷たく笑われる時代。ネットが発達し、人々が自分の見たいものだけを見て「自分の世界」に生きることが可能な社会では他人の正義に冷ややかになるのも無理はないでしょう。
 
 冷笑と似た言葉にIrony(皮肉)があります。本当の意味とは逆のことを言うことで本音をほのめかすこと。「おたくのお子さんは本当に優秀で羨ましいですねえ」といった具合。
 
 ネガティブな意味で使われることが多いIronyですが、そうでない場合もあります。リチャード・ローティは理想的社会の人間像をLiberal Ironist(リベラルな皮肉屋)と表現しました。Liberalとは「残酷さこそが人間がする最悪のことだと考えること」で、Ironistとは「自分の核となる信条や欲求を『絶対だ』とは思わずに『偶然のもの』と考える人」と彼は定義します(意訳)。
 
 社会で起こる残酷な出来事を減らしたい。同時に自分が一番大切にしている信条、例えば「誠実さこそが大切だ」を「絶対的な真実」とは思わずに、「たまたま自分がそう思っている意見」とわきまえる、そんな人。「社会」と「個人」の領域を明確に区別して、個人的な思いを社会のあらゆる領域に当てはめようとはせず、それでいて両方をなんとか満たしていこうと努力する人。その上で、残酷さに苦しむ人を減らそうとする人。
 
 「個人」と「社会」を分けることで「私の考えは絶対だから全ての人が従うべきだ」という人間を減らすことはできるでしょうが、問題もあります。自分の信条はすべて個人の領域に閉じ込めておくので、「誠実さこそが大切だ」と「社会には生まれつき劣等な人間が存在する」とを比べてどちらかが「より真実に近い」と言うことはできなくなります。全ての信条が相対化され、価値観の異なる人々をつなぐ共通項は「残酷さ」を認識することだけ。つまり、苦しみの共感です。
 
 苦しみの共感こそ、いま最も難しいことではないでしょうか?コロナ禍で「ディスタンス」がこれ以上なく広がった社会で私たちは共感、つまり「感情」を「共有」することがどこまで出来るでしょうか。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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