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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.11 空気

2021-04-30

 2015年ごろ、都内にある専門学校の教職の面接を受けたことがありました。紹介してくれたエージェントからは「自由な校風で働きやすいところですよ」と言われていたこともあり、期待して臨みました。
 
 面接担当の方からの質問に一通り答えた後、こう言われました。「最後に質問ですが、その髪を短く切ることはできますか?」私は長髪を後ろで結ぶ「マンバン」にしていたため、教師として相応しくないとのこと。「自由」な校風でありながらも髪型は「教師に相応しいもの」が求められる、というのに違和感を覚えたものでした。
 
 多くの場合、社会のルールには明確に言語化された表向きの決まりと、言語化はされなくても守るべきとされる裏の決まりがあります。「このコミュニティでは◯◯はXXする」というルールには「ただしAさんはXXが嫌いだからAさんの前ではXXはしない」という暗黙の了解がある、というように。
 
 日本ではそうした裏のルールを把握して社会でうまく振る舞うために「空気を読む」ことが求められているようです。空気が読めた人は事無きを得ますが、読めない人は損をするという具合。「空気を読む」というと何やらテレパシーのような特殊能力が求められ、それを多くの人が簡単にやってのける日本という国は特殊だ、と思う人もいるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。
 
 そもそもルールには言語化される部分とされない部分が存在します。ヴィトゲンシュタインは、ルールとはそれ自体が様々に解釈される可能性を内包しており、それに従ったつもりで各自がとった行為のどれが「正解」でどれが「不正解」かをルールそのものが神の声のように決めることはできない、という逆説を提示しています(複雑な議論のため詳細は省きます)。自由に解釈される可能性がルール自体に構造的に、いわばポケットのように用意されているということ。
 
 だからこそ私たちにはルールの確認作業が必要となります。言語化されていないことを言語化すること。それにより本来のルールがどこまで妥当なのかを問いただすこと。いま世界中で起きている政治的論争の多くが様々な「裏のルール」を表に出してその真価を問う作業だと言えるかもしれません。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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