旅は呼んでいる。
vol.52 ハワイ州ハワイ島
2021-02-26
嗅覚は記憶を呼び覚ます―脳の海馬の機能の凄さを、乗り継ぎのホノルルで思い知った。辺り一面に漂うレイの花の香りが、フリルのついたムームーを着たことやファイヤー・ダンスを鑑賞したことなど、すっかり忘れていた思い出を蘇らせたのだ。
ハワイ島を選んだのは“すばる望遠鏡”のあるマウナ・ケア山から星空を観たかったからで、サンライズ付きの現地ツアーに参加した。高山病にならないよう体を慣らしながらのルート、常夏といえど山頂付近は極寒のため防寒具の貸出など至れり尽くせり。プラネタリウム並みに星々が肉眼でくっきり見えた上、ガイドさんが高価な天体望遠鏡でプレアデス星団を、また、レーザーポインターで双子座を示してくれたりと十分満喫したが、サンライズが壮大な雲海越しでさらに感動。運良く滞在中に人生初の皆既月食にも遭遇し、とても神秘的な体験をした。
キラウエア火山の溶岩を含め、ハワイ島の大自然を一望するにはヘリコプターしかない、とこちらも人生初だった。怖くて生きた心地がしなかったが、飛び立てば意外なほど機体は安定し、プロペラ機よりも揺れず拍子抜け。肝心の溶岩は比較的活動が穏やかで噴き出す様子はなかったが、活火山だと肌で感じた。
宿泊は、晴天率が高いコナ側をチョイス。地元の少年達がハプナビーチでサーフィンを楽しんでいたので自分もやりたくなり、すぐにABCストアで20ドルほどの子供用ボディボードを買った。しかし冬場で高波だったせいもありものの数秒で上下反転、溺れかけて以来二度と触れていない。浮き輪ひとつで離岸流に巻き込まれて死ぬ思いをしたこともあり、こうして一人旅で行方不明になってしまう人もいるのだと猛省。
バブル期に親の社員旅行や親戚の結婚式で訪れ、子供心に楽しかったハワイ。レイの花の香り=幸せと刷り込まれていたのだろう、20数年経っても同じように楽しみ、また海馬に深く刻まれた。できれば今際の際にはこの香りを嗅いで逝きたい…そんなことまで思ったのだった。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。