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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.8 Optimization

2021-02-05

 最近よく耳にすることばの一つにoptimization(最適化)があります。もともとはITの分野でプログラムの実行速度を上げるためのシステムの調整を意味する単語でしたが、今ではビジネスから自己啓発まで、最も効率的な結果を出すためのノウハウという意味で使われています。

 何か結果を出す上で最適化が求められるのは当然です。木になったリンゴの実を取りたければ、ジャンプして届くまで自分の脚力を上げる努力をするのか、箱を用意してそれに乗って取るのか、選択肢のコストとリソースを考慮するのは当たり前。特に先行きが不透明な今、あらゆる分野で最適化を求める声が聞こえます。

 ただ、最適化を「人生」にまで求めることは出来るでしょうか。ヘルマン・ヘッセの小説「デミアン」には10歳の少年シンクレールが精神の旅を通して真の自己を手に入れる姿が描かれます。親に守られ信仰と温情に満ちた「光の世界」に住む彼は、年上の不良少年クローマーに脅される毎日を送ることになり、苦悩に満ちた「闇の世界」に陥ります。光と闇の間で苦悶する彼の前に不思議な雰囲気をもつ少年マックス・デミアンが現れ、クローマーを黙らせ、シンクレールを苦悩の日々から救い出します。闇を抜け出した彼はもはや光の世界でも闇の世界でもない、新しい地平に立ちます。

 示唆に富んでいるのは、シンクレールを新しい地平へと導いたデミアンは突如として彼の人生に訪れたということ。光の世界に居続けるには親の教えを忠実に守る、つまり自分をその世界に「最適化」することで実現できるでしょうが、それは不可能です。彼の人生は、そして私たちの人生は、クローマーが出現する可能性、そしてデミアンが登場する可能性に貫かれています。最適化できる領域とできない領域があり、人生とはその両者が渾然一体となった瞬間の連続ではないでしょうか。どこまでを最適化してどこから最適化を諦めるのか、それを見極めて人生を最適化することなんてできるでしょうか。

 効率よく結果を出すことはとても重要です。でもそれを「生きること」そのものにまで拡大することばに出会うたびに、「木を見て森を見ず」とでもいうような、何かを見失う不安を禁じえません。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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