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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.4 割り切れないもの

2020-11-06

 NYのブルックリンに住んでいた頃の話。私は友人の女性と近所のダイナーで昼食を取っていました。オムレツの付け合わせに出るハッシュドポテトがとても美味しくてよく通っていた店です。

 「わたし、小学校の科目で一番大切なのは算数じゃないかって思うのよね」

 その理由を聞いてみました。

 「だって、割り算で『7割る3』の答えは『2、あまり1』でしょ?ちゃんと余りというものが残るって教えるのよ。『あまり1』をさらに割っても『2.3333...』で、結局『割り切れない』という答えしか出ない。算数こそ『論理的に突き詰めて考えても割り切れないことがあるんだよ』って教える科目じゃない?」

 その通りだと思いました。論理を突き詰めていけば論理で割り切れない地点に到達する、それが「論理的に考える」ということではないでしょうか。

 割り切れないもの。いま世界全体が「割り切ること」に向けて、つまり「分断」に向けて突き進む中で、私たちの存在自体の割り切れなさを思い出す必要があるのでは。

 例えば、自分と違う価値観を持つ人とどう共存するか。自分の信じる宗教や世界観を大切にするのはもちろんのこと、それが「正解」で、それを受け入れない他人を「間違い」とする独断主義の立場をとる人は少ないでしょう。多くの人が「多様性」をキーワードに「人の価値観は多様で、それぞれがそれぞれに正しい」とする相対主義をとるはずです。

 でも、ここには落とし穴があります。

 自分とは違うのだから、他人の価値観は自分に関係がない。そして自分が価値観を元にどんな主張をしても他人からとやかく言われる筋合いはない。だからお互い何を言っても構わない。「言論の自由」があるのだから。

 そう、いま世界の分断を生んでいるのは独断主義よりもむしろ相対主義です。論理的に突き詰めると独断主義も相対主義にも「正解」は無い。でも私たちはそれを飲み込み、お互いに違う価値観を持ち、同じコミュニティを生きなければならない。これ以上に「割り切れないもの」はあるでしょうか。

 「あ、そのポテト残したの?食べてもいい?」

 私は慌てて「余り」のハッシュドポテトをほおばり、飲み込みました。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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