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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.2 ペルソナ 

2020-10-05

 昨年、イギリスのThe Sunに「1986年以来、リアリティTVショーの出演者の38人が自殺している」という記事が掲載され話題となりました。日本でも先日、フジテレビの『テラスハウス』に出演していた女性の自殺がメディアを賑わせました。
 
こうした悲劇は「リアリティ」を「ショー」にするという行為そのものに原因があると言えるかもしれません。そこにはペルソナの問題が深く関わっています。ペルソナとはラテン語で舞台用マスクを意味するpersonaに由来し、「人格」「登場人物」「社会向けの顔」を意味することば。要するに日本語の「キャラ」のことです。
 
 映画やドラマであればペルソナと役者は別人格と認められますが、「リアリティ」であって「ショー」でもある番組では「リアルな人間」がそのまま「ショーの登場人物(ペルソナ)」となり、ペルソナへの人々の憎悪などはそのまま本人に向けられます。自殺という悲劇は追い詰められた出演者たちの最後の逃げ道だったのかもしれません。
 
 そう考えるとペルソナは「偽の自分」でそれを演じる者は「本当の自分」と考えられそうですが、本当にそうでしょうか。ペルソナは単なる「仮面」なのでしょうか。
 
 私は子供の頃、吃音の傾向があり、人と話すのが億劫でした。大学生になって交友関係も広がりコミュニケーションに苦労する中で、自分のことばが滑らかに出てこないなら「他人だったらこう言うだろう」と架空の他人を演じて話す工夫をしてみました。すると驚くほどスムーズに喋れるようになったのです。以来、アメリカで教鞭を執るまでことばに自由になりました。
 
 他人(ペルソナ)を演じることで自分のことばを発することができる。それは自分の「中」にペルソナが組み込まれているから、とは言えないでしょうか。
 
 また私たちは日常的に家族、友人、同僚などに対してことば遣いから声のトーン、表情や感じ方まで様々に使い分けています。それら異なる人格のどれが「偽の自分」でどれが「本当の自分」と決めることはできるでしょうか。
 
 逆に、様々なペルソナを獲得し、巧みに使い分けられるようになって私たちは「本当の自分」になるのかもしれません。ペルソナの集合体こそが「自分」だとは言えないでしょうか。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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