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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.1 The Mean Reds

2020-09-29

 皆さん、こんにちは。今回からコラムを連載させていただきます哲学者の葛生(くずう)賢治です。毎回、様々な文化・社会現象やニュースなどから気になることばを取り上げてその背景や裏にあるものを語っていきます。よろしくどうぞ。
 
 第1回目のことばは「the mean reds」です。
 
 トルーマン・カポーティの小説『ティファニーで朝食を』の中で奔放な女性ホリー・ゴライトリーがいやな気分を表現する時に使います。彼女がティファニーで朝食を取ることに憧れるのは、ティファニーが自分を「the mean reds(いやな赤い気分)」から解放してくれるから、とホリーは言います。
 
 ブルーではなく、レッドな気分。汗が出るほど何かに怯え、同時に自分が何に怯えているのか分からない状態。彼女はティファニーの洗練された店内やスーツを着た店員、宝石類を眺めるとその根源的な不安がすっと消えるのでした。
 
 映画版ではロマンチックに変更されたエンディングのイメージが強いため目立たないですが、小説を読むとthe mean redsが意味するものの大きさが分かります。
 
 ホリーは本名をルラメーといい、子供の頃に両親を病気で亡くし親類の家を転々としていました。家から逃げ出し、牛のミルクと七面鳥の卵を盗みに入ったテキサス州の農家で捕らえられ、その家の主人である妻を亡くした4人の子持ちの中年男と14歳で結婚します。自分より年上の4人の「子供たち」に囲まれて生きる代わりに、一日中遊んで過ごすことが許される生活。嫌気がさした彼女は家出してニューヨークにたどり着きます。
 
 ニューヨークで別人となり性に開放的で自由奔放な交友関係を楽しむホリーでしたが、実は自分がルラメーでしかないことに気づきます。そのことを彼女は再び「the mean reds」と呼びます。
 
 浮かび上がるのは女性として家に閉じ込められ、社会的役割を与えられず、誰でもない人生を生きる自分。the mean redsはそんな自分に対する赤信号なのです。ティファニーへの憧れの裏にあるのは女性としてアイデンティティを獲得した自分への憧れだったのです。
 
 自分のアイデンティティとは?自分とは何か?放浪するホリーの姿を通じてカポーティの小説が問いかけるのはこの根源的な問いなのかもしれません。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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