編集部
【尾藤川柳評②】 初代 川柳 生誕300年記念 十六代宗匠 尾藤川柳が初来羅!!
2019-07-27
初代川柳(本名・柄井八右衛門)が生まれて300年、今や川柳は海を超え国境も超えて、北米でも多くの人々に親しまれている日本の文芸の一つ。
5月18日、初の川柳嗣号者訪米を記念して「十六代 尾藤川柳氏を囲むゆうべ」(パイオニア川柳吟社後援)が、トーレンス市で開催された。会場を埋め尽くした大勢の参加者は、「つなぐ」というお題で川柳を詠んだ。
本紙では、イベントで詠まれた川柳についての十六代・尾藤川柳氏の選評を2週にわたり掲載する。先週に引き続き、第2弾。
(左) 初代川柳(本名・柄井八右衛門)(右)尾藤川柳氏=2019年5月18日、トーレンス市
日米交流川柳 つなぐ 尾藤川柳評
過日、ロサンゼルスにおける川柳の交流会では、多くの方にお集まりいただき、心より感謝申し上げます。
川柳という文化を通じて、皆さまとお目にかかれたことを有り難く存じます。さて、当日いただいた「つなぐ」を課題とした作品を拝見し、句会的な位付けをすることに躊躇いたしました。
一句一句に作者の思いが満ち、その軽重に順位をつけることなど無用と感じました。そこで、課題とは別に内容別にテーマ分けして並べてみました。
「十六代 尾藤川柳氏を囲むゆうべ」で話す尾藤川柳氏
人情をよむ
手をつなぐただそれだけで赤くなり 鈴木 清司
孫の手に繋がれ渡る交差点 金川 紀恵
手をつなぎ互いの杖となる夫婦 高橋 アイリス
七十の写真へ自惚れる九十 織田 孝
繋いだ手離さず歩む五十年 大沢 早苗
夫婦愛つないでいるは子供達 名雪 建次
繋ぐ縁ひとつ間違え水の泡 森田 のりえ
前妻と繋がっているテレパシー 名雪 建次
車椅子心をつなぐ母子草 金川 紀恵
還暦の血圧血糖ガン検査 マイク 安永
初デート汗べっとりのつないだ手 大沢 早苗
携帯でつながる母の声を聞き ラスロップ 千恵
母と子の絆つないだ花茨 東坪 上枝
古稀過ぎてつながりを増す夫婦愛 紙谷 トム
徒然に想うままなる八十路坂 牧内 ヨシ江
つなぐ手は信号待ちのみ老夫婦 松田 八洋
老夫婦ゆっくり渡る手をつなぎ 今尚 夢子
夫婦糸退職の後ぶっちぎれ 高橋 レイゲン
つながって優しい思いつながって 丸山 史吟
点と点つなぐ戦のクラス会 森田 のりえ
茨道手に手つないだ五十年 野島 弘子
若き日のつなぎたい手も今はいい 松田 八洋
五十年繋いだ糸は黄金で 織田 孝
「人情をよむ」と分類した作品は、江戸以来の伝統川柳の視点を受け継ぎます。
「世態人情の機微」は、人間を「かるみ」の表現で描き出します。「人生をよむ」の個人的な深さより、軽い共感の世界です。ある意味、いちばん川柳らしい表現でもあります。
「つなぐ」というテーマで、多く「夫婦」が描かれているのを面白く感じました。
また、「高齢化社会」の中の自分を自嘲的によんでいるのも特徴的です。
ただ、この表現世界は、誰もが感じるものを五七五にしてしまう場合もあり、文芸としてのオリジナリティに欠けたように感じられることもあるでしょう。
世態人情の機微は、時代を超えた感情です。その中から、新しい「今」を発見することが大切になります。
だれも表現していない手垢のついていない事象を捉えた時、時代を超える川柳に成り得るかもしれません。
「十六代 尾藤川柳氏を囲むゆうべ」の様子
社会をよむ
挨拶と笑顔でつなぐ地球の輪 高橋アイリス
ネットでも声が繋がる摩訶不思議 松田 八洋
年寄りのこそこそ話でかい声 Kimi
神仏に頼れぬ世代どう狂う 織田 孝
LAの観光名物カーチェイス マイク安永
好いことが書いてあるのか見るスマホ 横山 きのこ
駅伝は熱き願いの汗つなぐ 太田 羅山人
伝統を代々つなぐ匠わざ 高橋 レイゲン
英語難日本語教える公務員 福島 洋
国と国つなぐ第九の大合唱 山口 健
異国でも伝統つなぐ日本食 西 達夫
「社会をよむ」視点は、時間的に狭い「時事」から少し広がって「風俗」を題材にした句といえるでしょう。その分、やや焦点の鋭さに欠けますが、句会などでの共感では、有効な面もあるでしょう。社会のユーモラスな面を切り取った句が多いようです。
ここでのコツは、アイロニーでしょう。世の矛盾、社会の矛盾などを捉える目が、面白いが当然である事象を描くよりも深い笑いを生みます。
「十六代 尾藤川柳氏を囲むゆうべ」実行委員会の皆さんと打ち上げ
さて、幾つかの句を落としましたが、理由の一つは、同一作者が同テーマを句にした場合、良い方の句を残しました。
もう一つは、それぞれに欠点を抱えた句と感じたからです。
例を挙げて確認しておきましょう。
作句のヒント
つなぎ合い強くなれるよ年寄りは
別に老人に限ったことでもないでしょう。もう一つの問題は、「年寄りは」と助詞止めにしている句の据わりの悪さ。添削してみれば、
『年寄りも繋がり合いで強くなる』でしょう。
ただし「繋がる」→「強い」は、既成概念の範疇ですね。
松果体意識をつなぐ鍵となる
女性のみミトコンドリヤ繋ぎゆく
確かにその通りなんですが、科学的知識を五七五にしてみても仕方ありません。これを「説明調」と言います。これを脱するには、「描写体」にすることです。
たとえば、
『松果体老いの意識へつなぐ鍵』
『世を跨ぐ地母神のミトコンドリア』
ではいかが。
次世代につなぐ命のめでたさや 名雪 建次
時は過ぎ令和につなぐ余生かな 中田 隆之
川柳のつながり楽し落語かな 螺旋 奈子
負の遺産息子につなぐ背龍かな 鈴木 清司
「や」「かな」「けり」などは、「切れ字」ですが、強い詠嘆を感じます。
一人で詠嘆しても、読み手はシラけます。もっとも詠嘆や俳句の切れ字効果を目的としたのではなく、十七音に音が足りなかったから用いられたようです。切れ字は、目的や効果を意識してて使うことが肝要です。
手をつなぎ昔ラブラブ今介護
面白い句なのですが、「サラリーマン川柳」の焼き直しのようにみえてしまいます。川柳も文芸(文による芸術)を目指すなら、オリジナリティが大切ですね。
さいごに
初めての交流で、短い時間の中、句を作っていただきました。川柳に携わる者として有難く存じます。
本来ならば、その場で講評をするべきところでしたが、時間一杯になってしまい、それがかないませんでした。
深くお詫び申し上げますとともに、どうぞこれからも川柳を作る機会をもって、楽しんでいただければと存じます。
【尾藤川柳】
尾藤川柳氏がグランド・キャニオンにて一句。『雪の間の 神の縞柄 翠き川』
旅の仲間と、ウォッチタワーよりグランド・キャニオンの大自然を見て川柳を詠む
(写真・石口玲さん提供)
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

