編集部
【尾藤川柳評①】 初代 川柳 生誕300年記念 十六代宗匠 尾藤川柳が初来羅!!
2019-07-20
5月18日、「十六代 尾藤川柳氏を囲むゆうべ」(パイオニア川柳吟社後援)がトーレンス市のリダックホテルで開催された。
初代川柳(本名・柄井八右衛門)が宝暦7年(1757年)に活動を始めて以来、川柳嗣号者の初の訪米となり、イベントは盛り上がった。参加者には、事前にお題「つなぐ」が案内されており、十六代川柳氏から選評してもらえるとあって、多くの句が寄せられた。イベント中に紹介できなかった川柳氏の選評を、本紙で2回にわたり掲載する。
(左) 初代川柳(本名・柄井八右衛門)(右)尾藤川柳氏=2019年5月18日、トーレンス市
日米交流川柳 つなぐ 尾藤川柳 評
過日、ロサンゼルスにおける川柳の交流会では、多くの方にお集まりいただき、心より感謝申し上げます。
川柳という文化を通じて、皆さまとお目にかかれたことを有り難く存じます。さて、当日いただいた「つなぐ」を課題とした作品を拝見し、句会的な位付けをすることに躊躇いたしました。
一句一句に作者の思いが満ち、その軽重に順位をつけることなど無用と感じました。そこで、課題とは別に内容別にテーマ分けして並べてみました。
日米交流をよむ
海越えて川柳ロスに舞い降りる 石口 玲
日米の川柳つなぐトーレンス 山口 健
江戸の華ロサンゼルスで踊り出す 中村 よし胡
楽しみは世界をつなぐ川柳 タミー 米田
日本から令和川柳初日の出 織田 孝
日系の歴史を川柳で紡ぐ 京乃一人琴
日米の五七五つなぐ友つどう 森田 のりえ
川柳が跨ぐ国境人心 横山 きのこ
川柳でつなぐ今宵のよい出会い 鶴亀 彰
川柳の橋日米へ延びた夏 榎本 博行
川柳につながる我が句海を越え 北川 令和
十七字ご縁をつなぐ江戸とロス 牧内 ヨシ江
つなぐ手の奥を極める川柳 野島 弘子
乾きたる心をつなぐ花の宴 金川 紀恵
つながれて我が家移民の四代目 内 アリス
バスで見るロサンゼルスの別の顔 和子 バウムガードナー
川柳も十六代につぐ日本 内 アリス
待つほどに待てば川柳北斎日 東坪 上枝
令和あけ光をつなぐ江戸文化 西 達夫
海渡り新しき友古き友 中村 よし胡
移民史を細々つなぐ錆びたペン 宇都 湖畔
「日米交流をよむ」では、ひとつの「座」としての気分が伝わってくるでしょう。
この中には、初めて川柳を作った方もいらっしゃると存じますが、ヒトのココロが十七音になった時、そこには既に川柳という文芸が生れます。だれでも直ぐに作ることができ、また作者の深さまで追い求められるのが川柳です。
さいごの宇都さんの「錆びたペン」には、過去の感慨から今に繋がる深い思いが感じられ、この場を詠んだ作者の心理そのもののようです。
「尾藤川柳氏を囲むゆうべ」の様子=2019年5月18日、トーレンス市
人生をよむ
繋ぐものあるから生きる糧になる タミー 米田
ハグよりもギュウぬくもり懐かしい 螺旋 奈子
「大丈夫」絆をつなぐ合言葉 高橋 アイリス
苦言さす友の言葉がつなぐ明日 今尚 夢子
若き日の熱ききずなの色褪せず 紙谷 トム
離さない繋いだ友の手のぬくみ 東坪 上枝
祖母思うつながるために今踊る 丸山 史吟
思い出をつなぎ留めてる古行李 宇都 湖畔
楽しさの出逢いに酒の美味しい日 鶴亀 彰
初孫に日本の背骨飢えておく 京乃一人琴
入口はひとつあざなう明と暗 横山 きのこ
「人生をよむ」句は、深く心の中に視線を向けます。
「つなぐ」という課題を通して見詰めた作者の内側からの声が川柳となって結晶しています。
見えない主観の部分を視覚化して描くことで、一片の詩と成り得ます。
タミーさんの「あるから生きる」という中七の前後に結ばれた「繋ぐもの」と「糧」は、まさにその象徴です。
これら主観の視点は、明治以降の新しい川柳で得られた表現分野と言えます。
(左)落語で観客を笑わす横山きのこさん(右)牧内ヨシ江さんが、かっぽれを踊り、イベントを盛り上げた=2019年5月18日、トーレンス市
時事をよむ
象徴をどう受けつなぐ御名御璽 榎本 博行
引き継いだ平和の令の幕開ける ラスロップ 千恵
つなげたい世界平和と天皇制 鈴木 清司
平成をつなぐ令和の二重橋 織田 孝
つなぎつつ万世一系波高し 高橋 レイゲン
野良猫の増えて令和も元気です 牧内 ヨシ江
新元号へ幸多かれと願う民 太田 羅山人
陽は上り令和がつなぐ世の平和 西 達夫
育んだ東北の絆つなぐ意味 榎本 博行
街と街つなぐ聖火に旗の波 山口 健
アフガンと日本をつなぐランドセル 京乃 一人琴
拉致の海望みをつなぐ母も老い ラスロップ 千恵
「時事をよむ」という視点は、常に「新しい」テーマを川柳にする大切な視点です。
「人情」や「社会」は、どうしても同想の句を生み出しやすくなります。
今回は、5月1日に「改元」という節目があった日本の「今」がテーマとなって多く見られました。
太平洋を越えて日本を見詰める視線が句になっています。
「東北」は、東日本大震災という現実が下敷きとなり、目の前に迫ってきた「東京五輪」に目が向けられ、さらにはアフガニスタンの現状や拉致問題へも広がりました。
写真・石口玲さん提供
(続く )
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

