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コラム

ピアノの道
vol.10 「ピアノを弾く」vs.「音楽を奏でる」

2019-05-15

 “Social Sculpture(社会彫刻)”って、ご存知ですか?社会は一つの大きな芸術作品、その将来は世界の市民全員参加の共同制作、と考えるのです。我々の日常の営みや人生の選択は全てこの芸術作品を形作る表現です。ドイツ人芸術家、ヨーゼフ・ボイス(1921-1986)の概念です。

 私がピアノを弾き始めたのは2歳半でした。でも音楽を奏で始めたのは実に最近の様な気もします。ボイスの概念を持って違いを説明すると、「ピアノを弾く」のは自分のためで、「音楽を奏でる」のは共鳴で世界を美化する理想を求めて、と言うことになるのかも知れません。

 舞台恐怖症と戦いながら演奏していた頃、呪文の様に繰り返したフレーズがいくつかありました。音楽に陶酔して現実から逃げたい自分の客観性を何とか保とうと「Do your job(仕事に集中)」とか「It’s just music(たかが音楽)」と自分に言い聞かせました。音楽に入り込み過ぎると、かすかなミスタッチや客席からのノイズなどのショックで度忘れすることある―それが怖かったんです。まだまだ「ピアノ弾き」だったのだと思います。それが3.11後のチャリティーコンサートの数々で音楽の癒しを目の当たりにして「お客様が聴いてるのは私じゃなく、音楽」に、繰り返すフレーズが変わりました。音楽会の成功は私の指先の技術ではなく、会場の一体感で決まることに、やっと気が付けたんです。更に、その一体感は奏者が一人で創り得るものでは無く、会場全体の魂と誠意の交信だ、と言うことにも。その頃「ピアノ弾き」を卒業して、音楽を奏でる一歩を踏み出せたと思います。そして弾くことが段々怖くなくなりました。

 でも、音楽を慈しむ心がある人は「ピアノ弾き」の音にも音楽を見出して下さいます。私はそういう心ある聴き手たちに、音楽の真髄を伝授され、育てられたと思います。例えば昔、必死に練習中の私のドアをノックした、名前も知らない隣人がいらっしゃいました。「辛い介護が終わった。介護中、あなたの練習が始まると草むしりにかこつけて裏庭に出て、音楽に涙した。ありがとう。」若かった私はただびっくりしました。今は、思い出して、涙が出ます。そして、もっと音楽を発信したい、と思います。

音楽って本当に凄いんです。

この記事の英訳はこちらでお読みいただけます。
https://musicalmakiko.com/en/?p=1045


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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平田真希子 D.M.A. (Doctor of Musical Arts)

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。

詳しくはHPにて:Musicalmakiko.com




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