来夏の映画観ようよ♪
vol.33 運び屋
2019-04-04
ペルーからの帰国時、成田で「荷物を開けて」と中身を確認された。今まで一度もそんなことは無かったのになぜ?と思い当たる節が"コカイン"。クスコの空港には原料のコカの葉が山積みされており、コカ入りのキャンディやお茶もお土産として普通に売られていた。もしかすると、運び屋と怪しまれたのかも知れない。本作品は、図らずも本当にコカインの運び屋となってしまった老人の人生を実話を基に描いている。
長年、ユリの栽培や品種改良など園芸業を営んできたアール・ストーン。仕事や仲間達との交流を優先し、妻や娘、孫に恵まれながらも家庭をないがしろに生きてきた。事業に失敗し、金も行き場も無くしたため久しぶりに家族を訪ねるが、冷たく突き放されてしまう。そこに、偶然居合わせた若者から「運転するだけでいい金になる仕事がある」と持ちかけられ、話を引き受けるのだが…。
さすがクリント・イーストウッド!彼以外にこの主人公は演じられない、と言い切れるほどハマり役だった。劇中では、ひたすら陽気に運転をし、麻薬カルテルの人間たちと対等に会話し、家族とは会う度に揉めて…と派手なシーンは全くないのだが、彼の人間性に引き込まれ、飽きずにずっと見ていられた。ところどころ、何気ないシーンでのセリフにも深みがあり、つい泣けてしまう。これが、年齢と経験を重ねた人間だけが出せる持ち味なのか。背中は曲がり、歩きも少しおぼつかないものの、歳を取ってなおユーモアと前向きさで人を魅了し続ける、紳士で素敵なおじ様―イーストウッド自身と主人公がどうしても重なって見えるが、それも見所なのだろう。また、娘役に実の娘を起用している点も心憎い演出だ。御歳88歳のクリント・イーストウッド。まだまだ元気に長生きしていただき、次回作もぜひ観たい!
さて、先月某アーティストがコカイン使用で逮捕され、出演映画や音楽作品が片っ端から販売停止になった。しかし、臭い物に蓋をするよりも薬物乱用防止の啓発に活かせば良いのにと思う。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

