来夏の映画観ようよ♪
vol.31 女王陛下のお気に入り
2019-02-28
先週、“ホンダがイギリスの工場から撤退”というニュースが目に留まり、イギリスのEU離脱が今月末に迫っているのを思い出した。人もモノも今までのように欧州内を自由に移動できなくなるのでは、と経済や政治への大きな影響が懸念されている。本作は、そんな現代のイギリスからおよそ三百年前の物語。
フランスと戦争中のイングランド。アン女王が統治を行っていたが、実質、女王の幼馴染で女官長のサラが政策に口を出し、意のままに国を操っている状態であった。そこに、サラの従姉妹だというアビゲイルが宮廷に現れる。わけあって没落した貴族である彼女は召使いとして雇われるものの、サラのような権力のある地位を得ようと野望を抱き、言葉巧みに、また、文字通り体を張って少しずつアン女王に取り入っていく―。
単なる歴史ものかと思いきや…予想に反し、策略と愛憎が渦巻き、えげつなくシュールな人間模様が繰り広げられる。アン女王、サラ、アビゲイル、三人の女性の個性はどれも強烈で、中でもやはり女王は一筋縄ではいかない性格だ。子どものように純粋だといえば聞こえはいいが、わがまま放題で極度の寂しがり屋、いや、もうこれは現代でいうところの立派な≪メンヘラ(精神状態のよくない人をさすネットスラング)≫ではないか。自殺未遂や夜中の急な呼び出し、過食症状、「私を奪い合うなんてサイコー!」と、好きな相手をわざと嫉妬させて喜ぶエキセントリックさ。だが、それだけ情緒不安定になってしまわざる得ない事情、過去があるので同情を禁じえない。
また、サラのファミリーネームは“チャーチル”であり、あのウィンストン・チャーチル首相の祖先だと知った上で観ると、タフで気骨のある様子がどことなく彼とかぶって見えて面白い。
先日のアカデミー賞授賞式では、アン女王を演じたオリヴィア・コールマンが主演女優賞を受賞。女王の≪メンヘラ≫ぶりは確かに見物であるし、いつの時代も人間の本質は変わらないのかもと思わされたのだった。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

