来夏の映画観ようよ♪
vol.10 You were never really here (邦題:ビューティフル・デイ)
2018-04-19
フロリダ州銃乱射事件を受け、未だかつてないほど銃規制運動が盛んだ。年齢制限の引き上げや殺傷能力の高い銃の販売を止めようという動きだが、トランプ大統領は「FPS(プレーヤー視点で射撃が出来るゲーム)や映画の暴力表現が問題だ」と発言。本作でも暴力的な描写はあるが…。
ニューヨークで年老いた母親をいたわりながら、行方不明の少女たちを救出する仕事をして暮らすジョー。いつも仕事を仲介してくれるエンジェルからマクレリーを紹介され、新たな依頼を受ける。それは、選挙中の州議会議員ヴォットの娘で拉致されたニーナを探し、連れ戻して欲しいというものだった。幼少期のトラウマに加え、軍隊とその後勤めたFBIの任務で負った心の傷と戦いながら、ジョーはニーナを救うために奔走する。
五感に訴える、映画らしい映画を久しぶりに観た。暗いサウンドトラックが物語にマッチして素晴らしく、調べるとレディオヘッドのJ・グリーンウッド作曲だった。名前しか知らなかったが、興味が湧いてすぐに試聴したほどだ。映像も惹きつけられるものがあり、中でも紆余曲折を経て湖で入水をする場面は詩的で美しい。そして、一番の見どころは主演のホアキン・フェニックス。母親には深い愛情を持って接するが情緒不安定で、仕事では非情なまでの攻撃性を発揮する。ホアキンは、そんなアンバランスで危うい魅力のあるジョーそのもので、彼が感じる苦悩をこちらまで感じた。強面でシリアスな役柄とは裏腹に、カンヌ映画祭で男優賞を受賞した際、スーツにスニーカーを履いていたというエピソードが微笑ましくすっかりファンになってしまった。
確かに、ジョーがハンマーで問答無用に警備員達を倒していくシーンやラストでの一幕は、ドキっとするほど暴力的で生々しい。だが、それらは決して暴力を美化し促すものではなく、あくまで彼の複雑なパーソナリティを表現するための演出のひとつ。今後、極端な規制により映画が自由に作られなくなる可能性を考えると少し怖い。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

