来夏の映画観ようよ♪
vol.4 ダークナイト
2018-01-12
空前絶後のヴィランが誕生した。クレイジー!クレバー!クール!アメリカ映画史を代表する悪役“スターウォーズ”のダースベイダーや“羊たちの沈黙”のレクター博士にさえ、勝るとも劣らない。彼の名前は、ジョーカー。
舞台は、マフィアや汚職警官のはびこるゴッサム・シティ。凶悪犯罪から人々を守るバットマンは、昼間は大企業の社長という二つの顔を持ち、莫大な財力を活かして強靭なスーツや武器を開発しながら日々戦っていた。そこに、新たな強敵が現れる。白昼堂々と銀行強盗を働き、街を牛耳る既存のマフィアにも怯まず「バットマンを殺してやるから大金をよこせ」と要求するものの、実は金など興味がない。彼の真の目的とは・・・。
ジョーカーの存在が強烈すぎるゆえ、本来の主人公を忘れてしまうほどだ。見た目のインパクトはもとより、常軌を逸した行動には倫理観を越えて惚れ惚れする。事件の手口も鮮やかなだけなく、人の心理、弱点を突くのが天才的に上手い。悪党とは一枚上手の取引で、警官には家族の弱みを握り、己の計画に従わせる。そして、街の犯罪を一掃してくれるはずと期待された正義漢の検事をも、巧みに悪に染め破滅へと追い込む。これほどまでに完璧な悪役が、今まで存在しただろうか。長い戦いの末、ついにバットマンはジョーカーを捕えるが、彼が残した犠牲は悲惨極まりない。仲間である刑事も「奴の勝ちだ」と言わざるを得ない幕引きとなる。正義と悪、勝ち負けの境目は曖昧―そんな哲学的な問いを残し、苦悩の中ヒーローは去っていく。
勧善懲悪、ハッピーエンドがお決まりと思っていたアメリカン・コミックスの概念を見事に打ち破ってくれた作品。なお、ジョーカーを“怪演”したヒース・レジャーは本作の公開前に28歳という若さで急死したが、圧倒的な演技力でアカデミー助演男優賞を受賞した。ヒースが亡くなってから今月でちょうど十年。映画を観て、こんな素晴らしい俳優がいたことを多くの方に知ってもらえればと願う。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

