後藤英彦のぶっちゃけ放題!
第418回 渡部隆男さんを偲ぶ会に出席して
2017-03-23
山形の真室川音頭がこれほど寂しい歌とは知らなかった。
一月中旬、急逝したLA日本人村の名物男、渡部隆男さん(七七)を偲ぶ会場でのことだった。
♪わたしゃ真室川の梅の花 コーオリャ あなたまたこのまちの鶯よ 花の咲くのを待ちかねてコーオリャ つぼみのうちから通って来る♪
四ヵ月前に某団体の席で手洗いに立った折、偶然隣で用を足していた彼がブギウギ調で口ずさんでいたのがこの真室川音頭だった。
おばあさまがよく歌っていたそうで、「おれの歌だ、君ら歌うなよ」とLA稲門会の後輩を制していたそうだ。
一四年三月末、LA稲門会創立六○年記念式で早大創立者大隈重信候の生涯について講演を仰せつかったが、それ以来の付き合いだった。
母校早大愛に燃え、豪気かとみれば繊細で、いつも目と口に微笑を湛えていた。
後輩の水野穣さんが言うように彼は無類の偽悪者で、この月旦を私の当日の挨拶でも借用した。
芸達者な司会者三浦悟郎さんが余興に真室川音頭、最上川舟歌など四曲を披露したが、真室川音頭の「あなたまた このまちの鶯よ」のところで少し涙腺が緩んだ。
手洗いで渡部さんが口ずさんでいた個所がこの部分だった。顎を少し前に出し目を伏せていた。
昨年末、渡部、水野、私の三人でサンタバーバラ(SB)のワイナリー巡りを計画したが、彼が理事を務める日系支援団体パイオニアセンター(PC)の理事会と重なった。
ワイナリー巡りを案内してくれるSBの裏千家教授、笠井宗京さんに少し延期すると告げた。
彼の脳腫瘍の全快を待ってSBツアーを楽しむことにしたが、楽観的な私たちをあざ笑うように突如訃報が飛び込んできた。
当日の偲ぶ会では稲門会の小川勝義、荒木逸治、斉藤信夫、水野穣,竹花晴夫、大須賀美津子、平林憲法の諸氏ら、PCから山口弘夫妻そして私が哀悼の辞を述べた。
三浦さんの伴奏は尺八・上村佳、三味線・三浦佐智子、吉見愛子の諸氏で上村氏以外は稲門出。
力強い吉見さんのコーオリャの合いの手が男渡部と重なって悲しかった。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

