苦楽歳時記
第219回 鯖(さば)棒鮨
2016-10-06
近江の国の珍味といえば「鮒鮓」(ふなずし)。琵琶湖産の天然仁五郎鮒の子持ちを使って「鮒鮓」を作る。滋味豊かな味わいは酒肴(しゅこう)に最適だ。また、茶漬けにしても至高の旨味が味わえる。
専門店で玩味する「鮒鮓」は確かに佳味だけれども、地元の各家庭での自家製「鮒鮓」ほど、珍味佳肴(ちんみかこう)なものはない。
滋賀県の長浜に、「鯖棒鮨」が評判の料亭『すし慶』がある。ここの「鯖棒鮨」は、類を見ない格別な味わいなのだ。また、「焼き鯖鮓」(棒鮨)も妙味である。
特筆に値するのは、「金目鯛あぶりすし」(棒鮨)が味わえることだ。肉厚でとろけるように柔らかく、口の中へ広がる山椒の風味がこたえられない。
「鯖棒寿司」といえば、京都の『いづう』が有名だ。創業天明元年のこの店は、「鯖姿寿司」(棒鮨)があまりにも名高い。
お品書きの中には「鯖姿寿司」、「鯛寿司」、「小鯛雀寿司」(いずれも棒鮨)などが入っている「京寿司盛り合わせ」がある。若狭湾でとれた最良の鯖を使っているから、はんなりとした口当たりがたまらない。
近江の『すし慶』にしても、京の『いづう』も、味覚は最上だがあまりにも値が張りすぎる。
食い道楽の街、大阪では、「ウマイ、安い、早い」でなければ受け入れられない。大阪の『鯖や』では、「とろ鯖棒鮨」が二〇〇〇円。『すし慶』三六〇〇円。『いづう』四七〇〇円。
少し高価であるが『鯖や』の、「松前大とろ鯖鮓」(青森県八戸前沖鯖を使用)三一五〇円は、究極の「鯖棒鮨」が味わえる。里帰りする度に必ず足を向ける。
また、「土佐清水の鯖姿鮓」(頭つき鯖棒鮨)一七〇〇円は、土佐嶺北の米、ヒノヒカリと柚子酢を使用。荒波にもまれた脂ののった最上級の土佐の鯖鮓だ。
*魚を発酵させて作る鮒鮓などの馴れずしは「鮓」。握り鮨やちらし鮨、箱鮨、棒鮨は「鮨」。「寿司」は、京都で朝廷に献上するときに使われる。『いづう』も寿司を採用している。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。