苦楽歳時記
vol206 幼児教育
2016-07-07
昔から「氏より育ち」といわれているのは、人間は氏素性(うじすじょう)よりも教育が大切であり、血統よりも境遇が人格を形成するからである。従って八歳ぐらいまでの情操教育は枢要な位置を占めている。
幼い頃に身につけた習慣は、「雀百まで踊り忘れず」などの慣用句でも表現されているように、老年になっても退歩することが少ない。幼児期に規則正しい習慣を身につけている子供と、そうでない子供とでは小学校に入学する頃から、その違いが顕著に表れてくる。
幼児期に机の前に座る習慣を怠り、絵本の読み聞かせや簡単な算数、そして想像力の練磨と自主性、更には自己表現の能力を培わない懶惰(らんだ)な生活を続けていると、取り返しのつかないことになってしまう。
幼児教育において最も肝要なことは、読み聞かせと音読、そして簡単な計算である。特に音読と計算は、老齢にいたるまで継続することによって、脳の前頭葉を活性化してくれるという。近年、認知症を予防するために、あるいは緩和させるための治療方法としても脚光を浴びている。
音読に最適な言語は漢字であり、漢字にひらがながまじる日本語は、脳を刺激する上で世界最良といわれている。これらのことを証明する一つとして、脳障害児の治療と幼児の才能開発で世界的に権威のあるグレン・ドーマン博士が、世界中から集まってくる脳障害児に対して、漢字を用いた治療方法をいち早く取り入れている。
それから、絵本にしろ、童話にしろ、闇雲に子供に本を与えるのではなく、まず親が十分に書籍の内容を吟味してから、良書のみを子供に与えるように心掛けてほしい。この図書の選択は非常に重要なことであるので、怠らないで慎重に取り組んでいただきたい。
一例を挙げると、同じタイトルの絵本でも、表現が軽率であるものや、「て に を は」などの、文章が不適切な場合がある。更に翻訳された童話になると、これらの不備は数多であるからだ。
音読をするにあたって、絵本も童話も小説も、散文が中心となっている。声を大にして述べたいことは、韻文の音読である。日本には古(いにしえ)から、短歌や俳句などの素晴らしい定型詩が存在する。韻文は子供たちの感性と想像力を育み、集中力を高めてくれるのである。
これらの薫陶を受けて育った子は、穏やかで粘り強い性質になると想う。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

