苦楽歳時記
vol197 すしとイカの塩辛
2016-05-05
魚が旨いと書いて鮨と読むが、酢飯の上に魚をのせることによって、相乗効果で魚の旨味が引き立つのであろう。
江戸では「鮨」、大坂は「鮓」の字が用いられていた。「寿司」は、京都で朝廷に献上することから考慮して使われるようになった。
板前の本場大坂では、魚をさばいてばかりいる料理は魚屋と同じで、仕込みに工夫を凝らす料理からして、魚を作る「鮓」となったのである。『令義解』(りょうのぎげ)には、「鮨また鮓なり」と注釈があり、「鮨」と「鮓」の区別がされずにともに「すし」とされていた。
関東は「刺身」、関西では「造り」と呼ばれている所以は、関東の切る(刺身)に対して、「造り」は、仕事をつくして魚をつくる意味にあたる。これらは、鮨に関する古文書を閲覧解読しての持説である。
江戸の川柳に、「妖術と いう身で握る 鮓の飯」(原文)というのがある。握り鮨を創案したのは華屋與兵衞(はなやよへえ)とも堺屋松五郎ともいわれる。江戸前(東京湾)の魚介類と海苔を使用する江戸前鮨は、江戸中の屋台で売られるようになっていた。また、屋台では、主(あるじ)は正座して鮨を握ったが、客は立ったまま鮨をつまんでいた。
生きた魚をさばいて調理される、いわいる活魚料理の味は今ひとつだ。
さしずめ白身魚は活け締めされたものを、塩氷の入った容器の中に浸ける。マグロは血抜きしだいで味が一変する。イカは水揚げ直後よりも、しばらくねかしたほうがイカ本来の甘みが出てくる。
家人から、悪疾に陥る前によく調理していたイカの塩辛のリクエストがあった。
ちなみにイカの塩辛には、塩辛に肝(スミ)を入れる「黒造り」と、皮ごとの身を入れる「赤造り」、そして、皮を取った身だけを入れる「白造り」。この三種類がある。
わが家のオリジナル塩辛は「黒造り」。皮をむかずにワタもゲソも入れる。材料は日系マーケットで売られている船凍スルメイカ、天然塩、塩麹、みりん、酒、柚の皮。柚が手に入らない場合は、柚胡椒液体を少々入れる。隠し味としてウニひしおを入れる。冷蔵庫に入れて熟成させるとでき上がり。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

