苦楽歳時記
vol196 ある一週間
2016-04-28
今、書斎にロン・カーター(ベース)の「The Shadow Of Your Smile」が流れている。きょうも朝から詩に関する小論の執筆に余念がない。
窓外を見れば、夜のとばりがすでにおりていた。空腹を満たすためにキッチンに向かい、ペティ・パンに生ハムを巻きつけてほおばった。
それから、シャワーを浴びて午前零時には眠りについた。四時間後、再び執筆を開始して、午前十一時頃に集中力が散漫になってきたので、いったん執筆を終了。
その後は、隣人のアンソニーのおごりで、ステーキ・ハウス『パシフィック・ダイニング・カー』へ赴き、名物「ハイヌーン・カウボーイステーキ」レアを味わった。
午後三時に帰宅。休憩を挟んで再び机に向かった。気分転換が必要だったので、連載のエッセイを仕上げた。
ところが肝心なデータが見つからない。パソコンのありとあらゆるところをくまなく探しても、それでも見つけることはできなかった。信じられない。パソコンに保存していたデータが忽然と消えてしまったのだ。頭の中は混乱して、やるせない思いだけが募っていた。
コンピューターの専門家に電話して、三日間調べてもらったのだが見つけられない。更にエキスパートに頼むとデータが見つかった場合には、四、五千ドルくらいチャージされると聞いて諦めた。踏んだり蹴ったりの数日を過ごす。
やがて僕は神に祈りはじめた。自力で探し出そうと心が動かされたのである。夜なべして、懸命なって消えたデータを探し求めた。命と家族の次に大切な資料と言っても過言ではない。
すると、ひょんなことからデータを見つけだす兆候を感じとったのである。とりあえず、八割程度の資料がバラバラの状態で見つかった。一つ一つ整理するのが大変だけれど、これでひとまず溜飲を下げた。
それ以来、パソコン以外にも重要な資料の保存をしている。ハプニングで時間を奪われたので、締め切りまでのこすこところわずか。感謝の祈りを捧げながら執筆を再開させた。
書斎にはビル・エヴァンス(ピアノ)の「Alone」が、心にしみ入るように流れていた。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

