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コラム

苦楽歳時記
vol191 のどかな春のひととき

2016-03-24

 家人に促されて、弥生の下旬に冬眠から目覚めた熊のように、久方ぶりにバルコニーへ出てみた。裏庭は朗らかな春の日の目をおびて、色とりどりの花笑みが吾輩を迎えてくれた。

 しばらくその場に佇んでいると、丹色(にいろ)のブーゲンビリアのある白い塀の上で、リスが木の実をかじっている。鳥たちは愛らしい声でさえずり、強く羽ばたいたりしては様々な求愛のふるまいを演じている。雲一つない青空を見上げれば、春たけなわの風趣が爽やかにただよっていた。

 バルコニーでゆったりと過ごすのは、およそ六年ぶり。吾輩はトーストをかじり、ダージリンの紅茶をすすった。

 杖をついて庭先までおりると、ダッチオープンを使ってローストチキンやラム肉のハーブ焼きを調理した想いが甦ってきた。

 娘の誕生日には大勢の友達をまねいて、吾輩の手料理をふるまった。五年ほど前に植えたであろうレモンの木が、ガーデンの片隅でひときわきわだっている。

 しばらくして、折りたたみの椅子を持っておりてきた家人と、ぬるめの玉露茎茶とウグイス餅を味わった。たわいのない話に花が咲くと、しばらくして静かに目を閉じてみた。

 二人で、こんなにも安閑とした折をすごすことはまれだ。吾輩はけがれのない幸福感に、しみじみと浸っていたのである。

 あすは確か、室生犀星の亡くなった日(三月二十六日)。吾輩は犀星の詩をそらんじてみた。

 愛と土を踏むことはうれしい/愛あるところに/昨日のごとく正しく私は歩むだろう(愛の詩集・序詩より抜粋)

 今、吾輩の心はやすらいでいる。「愛あるところに」、とこしえに留まっていたい。

 来週は診察の日が続く。再び月曜日から現実へと戻される。悪疾に倒れてから早七年半。闘病生活にも様々な心憂い体験があるのである。

 ああ、「愛と土を踏むことはうれしい」と、心奧から述べるのはいつのことになるのであろう……。

 ※本コラムは、昨年の三月二十五日の日記を手がかりに書きました。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




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