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コラム

1000字で文学名著
第3回 『カラマーゾフの兄弟』 フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

2016-03-15

 読むのに根気がいる超大作。複雑な四部構成(一編~三編、四編~六編、七編~九編、十編~十二編)。途中でわけがわからなくなる。登場人物の名前もロシア語で覚えにくい。『罪と罰』と並ぶ、ドストエフスキーの最高傑作。

 粗筋を数回読んでから、本腰を入れて読んでいただきたい。「最初にあらましを読むと感動が薄れる」と言う人もいるかも知れないが、頭が混乱して途中で放り投げるよりましである。この長編を味読するにあたり相当な集中力が必要。

 冒頭からこのように述べると読む気力を失する。けれども、サマセット・モームも語っているように、『世界十大小説』の名作。読まずにはいられない。

 登場人物と読みどころを記す。基本的には父親と三兄弟、それと下男(料理番)の話。

 父フョードルは、あくどい稼業で身代を築き上げた成り上がり者。抑制のきかない激情型で、物欲と酒色におぼれた日々を過ごす毒舌家。

 長男のドミートリーは先妻の子で、好色、無類の酒好き、感情的であらっぽい退役軍人。半面、高潔なものへの憧れをもつ。

 次男のイワン(イヴァン)は、大学の理科を卒業した賢明な青年。無神論者で陰気、皮肉屋、女好き。兄ドミートリーのいいなづけカチェリーナに、狂おしい思いを寄せて生きている。

 三男のアリョーシャは、僧院でゾシマ長老に教えを受ける善良で敬虔の念が深い。

 下男のスメルジャコフは癲癇(てんかん)の病をもち、フョードルが知恵遅れの女に産ませた子。軽率で悪知恵にたける。父フョードルを憎悪している。

 その他に、カラマーゾフ一族にからむ女性が二人いる。一人はドミートリーのいいなづけカチェリーナ。もう一人がフョードルと組んで、あくどい金儲けに奔走する食わせ物のグルーシェンカ。

 読みどころは数々あるが、ゾシマ長老のキリスト教とイワンの無神論の対決。作者の熱意が伝わってくる迫力ある場面。

 「神がいなければ、全てが許される」(第二部・五編)。イワンの言葉は、文学史に遺る有名な部分。

 「神と悪魔が闘っている。そして、その戦場こそは人間の心なのだ」(第三部・三編)。若い頃の筆者はドミートリーの言葉に、言い知れぬほどの深い感銘を憶えた。

 作者のドストエフスキーは、父親の名前を自らと同じフョードルに。ドミートリーと同じ軍兵として五年間軍務に服した。また、下男のスメルジャコフに癲癇の病を設定した。ドストエフスキー自身も癲癇発作に悩んだのである。

 自分の分身を登場人物に託したのは、醜さ、穢れ、愛欲、相剋、矛盾、信仰を自らに問い詰めるためであった。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




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