苦楽歳時記
vol181 『本(ほん)と本(ぽん)』と『松花堂弁当』
2016-01-14
大阪駅前でタクシーに乗り、運転手さんに日本一(にっぽんいち)と行先を告げると、日本橋(にっぽんばし)一丁目まで乗せていってくれる。東京の日本橋は、にほんばしと読む。
次にあげる固有名詞に日本(にっぽん)と日本(にほん)に区別して読んでいただきたい。
日本生命、日本郵船、日本航空、日本銀行、日本テレビ、日本中央競馬会、日本相撲協会、日本放送協会、日本経済新聞、日本赤十字。
日本生命から始まって(にほん)、(にっぽん)を交互に読むのがた正しい。これらの固有名詞には、どちらかに定められた読み方がある。
中国正史の一つ『新唐書』には、七世紀末、遣唐使がそれまでの倭(わ)を日本という国号に改める旨を伝えたと記されている。その後、五十年を経た八世紀初頭に、『日本書紀』が発表された。
日本国憲法で制定されている国名の『日本』には、ふり仮名がついていない。従って世界でも実例がない国名に、二通りの発音を容認させてしまった。
ニッポンと読むべきか、あるいはニホンと読むべきか、良きに計らえということなのであろう。
◆ ◆
「松花堂弁当」は、料亭『吉兆』の創始者である湯木貞一(故人)が考案。元々は、農家の種入れとして使っていた器にヒントを得て、江戸初期の社僧・茶人、松花堂昭乗が煙草盆として使用していた。
昭和の初め湯木貞一が、この器で茶懐石の弁当を作れと職人に指示したのがはじまりである。その後、毎日新聞が「吉兆前菜」として取り上げた。これを機に「松花堂弁当」が世に広まった。
田の字形の器(十字形の仕切り)も見た目にも美しく、互いに味や匂いがうつらない。前菜盛り合わせ、お造り、焼き物、煮物が彩りよくおさまっている。
吉兆の「松花堂弁当」は、はんなりとした粋(すい)な味。賞翫(しょうがん)したのは二十数年前の桜の季節。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

